8話 右の眼球をえぐらせていただきます。

 8話 右の眼球をえぐらせていただきます。


「昔からずっと言われていることだけれど、嘘をつくなら、もう少し、マシな嘘をついてくれ」


「私もかつては、聖典を信じていなかった。けれど、神は本当に美しかった……」


 あの日の事を思い出し、

 IR3の体に深い熱がともる。


「まさに、すべてを包み込む神……この上なく尊い『その御姿』は、言葉に出来ない黒銀に輝いて、『命の究極』ともいうべき光が、静かに、厳(おごそ)かに、またたいていた……あの日、世界のすべてが、あの御方の足元にひざまずいていた……すべてを超えた、神の王……命の王……」


 IR3の、止まらない電波発言を受けて、

 アモンは、ガチで引いた顔になり、


「……え? もしかして、あんた、ヤバい薬でもやってる? 目が、マジで怖いんだけど」


「触れていない者にはわからない。あの光、あの輝き……」


 はぁ、と熱い吐息をもらしてから、


「聖典は正しかった。いや、むしろ、間違っていた。聖典は、神の尊さを描き切れていない。あの御方の偉大さは、聖典に書かれている程度ではない。神の美しさは……もっと、もっと、尊い……」


「あんた、マジで目ぇ飛んでんじゃん……怖ぁ……」


 二人が会話している間も、

 試験はどんどん進んでいた。


 すでに100人以上の受験生が、

 ゲンの試験を受けたが、

 全員、もれなく不合格。




「おいおい、今年の受験生は質が低いな! ここまでの100人は、全員、記念受験か?! まだ、俺、一発も入れられてないんですけど?!」




 ゲンは、軽くイライラした顔で、


「多少は訓練になるかも、と思っていたのに、マジで、ただの作業じゃねぇか。いい加減にしろよ!」


 怒声を上げてから、


「まだ不合格になっていない受験生、聞け! そこに転がされている『俺にブチのめされた100人』より弱いヤツは、試験を受けたって意味ないから、自主的に帰れ。もし、そこの100人より弱いのに、まだ俺と戦おうとするバカがいたら、その時は、容赦なく、右の眼球をえぐるから、そのつもりで」


 ゲンが語った追加ルールを受けて、

 受験生たちは当然のようにたじろいだ。


「どうした? さっさと帰れ。『そこの100人より弱いヤツ』が、お前らの中に『一人もいない』ってことはないだろ? 53番目に飛ばしたヤツは、そこそこ強かった。そのぐらいは、お前らでも理解できたはずだ」


 ここまで、大半の受験生が、

 10秒以内に倒されているが、

 『53番目にゲンと戦った受験生』だけは、

 ゲンを相手に20秒も持ちこたえた。


「あれでも受からないのが、Sクラスの基準だ。言っておくが、俺は、メチャクチャやっているわけじゃないぞ。事前に学校側から、『このくらいが合格のライン』という基準データは与えられている。それを踏まえて査定しているが、『そこの100人』に、その基準を満たしている者はいなかった。53番目のヤツは、まったくラインに達していないってわけじゃなかったが、まあ、あと3歩たりなかったって感じだな」


 ゲンは、なんだかんだ、

 根がマジメなので、

 『やらざるをえなくなった仕事』は、

 それなりに、キチンとこなす。


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