最終話 もっと。

 最終話 もっと。


(仮に『複数戦の時は、相手の数に応じてリミッターが緩和される』……というシステムだったなら、まだワンチャンあるが、そうじゃなかったら、囲まれてボコられて終わり)


 ゲンは推測する。


(おそらく、スーパーリミッターは、『タイマンかつ、サイコジョーカーを使えば、ギリギリどうにか出来なくもない』、という程度の解除しかしてくれない。それも、『数値の上』での話でしかなく……戦闘力は考慮されない)


 少なくとも、ケムスとの闘いではそうだった。

 『数値の上ではギリギリ勝っている』という程度の解除。


 おそらく、それが、スーパーリミッターのデフォルト。

 いくら改造しようと解除できない枷。



「……結論を言おう。俺はまだまだ弱すぎる」



 自分に対して宣言する。

 『お前は弱い』とつきつける。


「……おそらく、ロコは、味方の誰が死んでも心を痛める。あれはそういう人間だ」


 これは願望ではない。


 惚れた女に『そういう人間であってもらいたい』という願い。

 そんな甘っちょろいものではない。


 これは事実。

 とてつもなく厳しい現実。


「究極的なロコの願いは……おそらく、誰一人死なない革命を成すこと……むちゃくちゃだぜ……」


 それがムチャクチャであることを、

 ロコも当然理解している。

 だから、普段は、絶対に、

 『ソレ』を口に出して望んだりはしない。


 しかし、あの保健室での会話で、

 ゲンから本音を求められた時、

 ロコは、真の『胸のうち』を口に出した。


 たった一人、

 ゲンに対してだけ、

 彼女は『むき出しの願い』を口にした。


 ソレは、きっと、

 『頼るに値する男だ』と思ってもらえたから。




「惚れた女に頼られた……それで無理をしないヤツは男じゃない」




 ゲンは、自分自身にそう言い聞かせながら、

 チョコネコのフロアを突き進んでいく。


 凶悪なモンスターをボコボコにしていく。

 体にムチを打って、自分自身を磨いていく。


 その中で、ゲンは気づく。



「また、停滞期の野郎が遊びにきたな……二度とくるな、と言っておいたのに、まったく、しょうがないヤツだ……」


 ケムスとの闘いで、

 ゲンの可能性は花開いた。


 しかし、人間の可能性は、

 一度の開花だけで完成するものではない。


 何度も、何度も、何度も、咲いて、

 大輪の花束になって、

 しかし、それでも、ゴールではない。


 それが人間の可能性。

 ある意味で、無間地獄。


(一気に引き上げられたものだから、一気に壁まできてしまったって感じか……)


 闘いの中で、

 ゲンは、自分の『才能のなさ』を改めて実感する。


「天才なら、もう少し視界が広くて明るいんだろう……けど、壁を前にした時の『俺の視界』はいつだってコレだ。真っ暗で、じっとりとしていて、脳が圧迫される……」


 1ミリたりとも、『未来』を思い描けない壁。

 壊せる気がしない分厚い壁。


 しかし、ゲンは、知っている。

 この絶望を乗り越えた先に、

 今の自分を置き去りにした自分が待っている。



「さあ、いこうか……俺は止まらない……もっと行く! 壁をぶっこわし、限界の向こうへ!」



 ゲンは怯むことなく、前へ進む。

 前へ、前へ、前へ!



「そうだ! 俺は、もっといく! もっと! もっとっ! もっとぉお!!」


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