90話 力がいる。

 90話 力がいる。


 ――その日の放課後、

 ゲンは、きしむ体を引きずって、

 『チョコネコのもっと不思議な館』に向かった。


 ケムスとの闘いで、

 そうとう疲弊しているわけだが、

 しかし、ゲンは止まらない。


 『ケムスと激しい戦いがあったから、今日はゆっくり休もう』

 などという甘えた選択肢は、ゲンの中にない。


 『やらなくてもいい理由』の数々を、

 『根性』と『気力』で根こそぎ殺しつくし、


 ゲンは、『今日という一日』を、

 精いっぱい、積み上げる。



(……ロコの願いを成就させるには……絶対的な力がいる。具体的に言えば、クリムゾンスターズを制圧できる戦力。完全院リライトを殺せる力……)



 ロコの願いを簡単な言葉で言い換えると、

 『完全な世界政府』の設立。

 『世の不条理』を取り締まる『高潔な監視の目』を、

 この世界に、あますことなく設置すること。


(アホだな。あの女は頭がおかしい。完全に狂っている……………俺と同じくらい……)


 ロコの理想を成すためには、

 『現状の既得権益』を丸ごとぶっ壊す必要がある。


 法的根拠に基づく権利と利益の破壊。

 ――ようするには、権威の頂点である完全院家の殲滅。


 それに伴い起きるであろう『乱世』を『統制する軍事力』が必要。


(ケムス相手に苦戦するようじゃ話にならない……ケムスは天才だが、アギトやロコと比べれば、当然、資質の点で劣っている……今の俺じゃ、五大家には抗えない)


 現段階では、ロコよりもケムスの方が強いが、

 それは、あくまでも年齢の問題でしかなく、

 資質という点で見れば、

 やはり、明らかに、ロコの方が上。


 五大家の人間は、やはり、質が違う。

 『もって生まれた資質』と、

 『これまでの歴史』の中で積み重ねてきた『基盤』が違う。


 すべてを覆そうと思ったら、

 尋常ならざる力がいる。



(セイバーが機能さえすれば……さすがに、完全院家の全てを相手にしても勝てるだろうが……しかし、セイバーは『俺より強い敵』が俺を殺そうとしても機能しなかった)



 ゲンは思う。

 おそらく、こいつは、そこらのニートよりも働く気がない。

 『よっぽどのバケモノ』が相手じゃないと機能しない。


(あくまでも推測だが、セイバーは、完全院リライトが相手でも『不足』と評価するだろう。セイバーの数値はケタが違う。いくらなんでも、リライトの強さが、あの域にあるとは思えない)


 結論に至ると、

 そのまま、次の考察に入る。


(エグゾギアにしてもそうだ。スーパーリミッターがエグすぎる……)


 まさか、あそこまで制限が入るとは思っていなかった。

 あれでは、ちょっと強い機動魔法でしかない。


(仮に『複数戦の時は、相手の数に応じてリミッターが緩和される』……というシステムだったなら、まだワンチャンあるが、そうじゃなかったら、囲まれてボコられて終わり。ようするに、クリムゾンスターズで積む)


 ゲンは推測する。


(おそらく、スーパーリミッターは、『タイマンかつ、サイコジョーカーを使えば、ギリギリどうにか出来なくもない』、という程度の解除しかしてくれない。それも、『数値の上』での話でしかなく……戦闘力は考慮されない)


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