71話 条件追加。

 71話 条件追加。


「……脳内お花畑とはこのことだな」


「それはこっちのセリフだ。彼我の差が分かっていないのは、そっちの方だってことを教えてやるぜ。今から、とびっきりの邪悪で世界を常闇に染める。――さあ、聖なる絶望を数えろ」


 そう言いながら、

 ゲンは、アイテムボックスから、

 豪華な装飾のラムドカードを一枚取り出して、




「セイバーリッチ・プチ、召喚!!」




 世界を震わせる声で、

 そう叫んでみたが、



 ……



 ――しかし、

 ラムドカードは、

 うんともすんとも。


「……」

「……」


 数秒の無言が流れた直後、

 ケムスが、渋い顔で、


「僕が気づいていないだけで、実は何かが起こっているのか?」


「だったらよかったんだが……現状は、ただの不発だ……ちっ……ま、100%のダメ元だったから、別にいいけど」


 舌打ちをはさんでから、いそいそと、

 セイバーリッチ・プチのラムドカードをアイテムボックスに戻すゲン。


「今のは、ノーカンだ。なかったことにしてくれ」


 一連の行動を余さず目視していたケムスは、

 深いため息をついて、


「君が全宮学園Sクラスに在籍しているという事実をノーカンにしたいところだね」


 呆れMAXでそういうケムスに、

 ゲンは、


「ああ、言い忘れていた」


 そこで、一端、間をおくように、


「俺が勝った時の条件を追加させてもらう。といっても、大したことじゃない。――俺が勝ったら、ここで見たことは全て忘れろ。それだけだ」


「……なんだ、その条件は。意味がわからない」


「なぁに、単純な話だよ。手の内は出来る限り隠しておきたいって、それだけの話。俺の人生は、悪い方向に奇想天外だから、おそらく、今後も、厄介な敵を相手にし続けるハメになるだろう。そんな時、相手が俺の能力に対して無知であれば、俺の勝率が少しは上がる」


 『対策されている場合』と、

 『無警戒の場合』、

 どちらの方が立ちまわりやすいかなど、言うまでもない。


「状況によっては、情報格差なんざ、ほんの少しのアドバンテージにしかならないかもしれないが、しかし、その、ちょっとした差が明暗を分けることだって、なくはないかもしれない。……ようするには、純粋無垢な臆病。生き残る可能性を少しでも上げておきたいという、単純な生存本能さ。爪を隠さない鷹は大馬鹿野郎。俺は賢くないがバカじゃない」


「単なるどうしようもないバカではなく、多少は考えて生きているということか。秘密兵器がどうこうというのは、あながち、たんなる大ボケでもないということかな?」


「ああ、その通り。俺の莫大な可能性……その一端を、少しだけ見せてやろう」


 そう言うと、

 ゲンは、アイテムボックスからラムドカードを取り出して、


「レーザーファルコン、召喚」


 飛行ユニットを召喚し、

 自分の背中に装着する。


 フワリと舞い上がるゲン。

 慣れた動き。


 その様を見て、ケムスは、


(上級の怪鳥種だと……ゲンの『召喚科目成績』は、中の下だったはずなのに、どうして、そんなレアモンスターを使役できる……)


 頭の中が、グルグルとまわる。

 反射的に、情報を整理していくケムスの頭脳。


(さっきのカード……あれは魔カードではない……おそらく召喚専用の特殊なアーティファクトだろうが、今まで見たことがない代物……)


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