66話 ケムスの主張。

 66話 ケムスの主張。


「なぜ、彼のような低品質な小物を、この場に呼んだのですか?」


「ゲン・フォースは、たぐいまれな資質を持つ可能性の塊よ。その証拠に、あなたも知っての通り、彼は五歳という若さで、全宮学園Sクラスに在籍している」


「それは、ヤマトの助力があったからだと、ボーレから聞いておりますが?」


「それは間違いのない話ね。けれど、あなたも知ってのとおり、彼は、学園に入ってからというもの、メキメキと実力を上げてきているわ。先の中間テストでは、すべての科目で合格ラインをこえているし」


「平均点ギリギリの科目も少なくないと聞いております。確かに、彼の成長率には目覚ましいものが、まあ、なくもないと言えなくもない」


 認めたくないという感情を前面に出しながら、


「彼を天才扱いする者が、Sクラスの中には何人かいるというのも知っております。……ですが、僕の目には、彼など、ちょっとした『早熟タイプの秀才』にしか見えません」


 ケムスは、10年生。

 この天才が集まる学園で10年近く過ごしてきた。

 だから、『才能の質を見抜く目』が、

 『それなりには育まれている』と自覚している。


 実際、ケムスの人を見る目は、それなりに確かなのだが、

 しかし、だからといって、当然、百発百中というわけでもない。


 彼女は、間違いなく『おそろしいほど優秀な人材』。

 だが、それがゆえに『プライド』が肥大化してしまっている。

 いつだって、膨れ上がった自尊心は、鑑定眼をくもらせる。


「数合わせとしてならともかく、幹部候補扱いは、正直、どうかと思います。この『全宮ロコ派閥』は『なあなあの集団』ではなく、世界に対する『明確な覚悟』を見せつけるための『芯ある集団』のはず」


 ケムスのいう『世界』とは『エリアB』のことを指し、

 ケムスのいう『明確な覚悟』とは『全宮家のご意見番になること』である。


 多少、過激な言葉を使うこともあるが、

 全宮家と真っ向からケンカする気など、彼女にはない。


 彼女の最終目標は、

 あくまでも『意見を述べることが許される地位』。

 それ以上の『尖った反乱分子』になる気などみじんもない。



「――ゲン・フォースが、ロコ様が抱える特殊部隊『毒組』の局長であるソウル・フォースの息子であることは知っています。手持ち部隊の隊長の息子となれば、当然、ロコ様の覚えもよろしいことでしょう。……しかし、そんな『馴染みの知り合いだから』というような、つまらない理由で、過剰な贔屓をするのはいかがなものかと」


「ケムス……このあたしが、配下の評価を情で決めると本気で思っているの?」


「ロコ様の評価基準が狂っているとは思っておりません。しかし、間違いを犯さないとも思っておりません。人は不完全です。それは全宮家の人間であっても変わらない。僕の考えは間違っていますか?」


「間違ってはいないわ。けれど、正しくもない」


「当たり前の話ですね。人の頭で世界の正解など導き出せるわけがない。だからこそ、慎重な議論が求められる。僕は自分の考えが100%正しいなどとは思っておりません。しかし、100%間違っているとも思ってはいない。ゆえに、僕は、僕の基準に従って、主君に思いをぶつけさせていただきます」

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