65話 全宮ロコの派閥2。

 65話 全宮ロコの派閥2。


「今日の会議には、ロコ様の派閥の中でも『優秀な者』だけが集まると聞いていたのですが……」


 そこで、ケムスは、ゲンをチラ見しつつ、


「なぜ、彼のような子供が?」


「ゲンは、年齢で言えば、あたしと同じだけれど?」


「失礼。では、こう言いかえましょう。なぜ、彼のような低品質な小物を、この場に呼んだのですか?」


「ゲン・フォースは、たぐいまれな資質を持つ可能性の塊よ。その証拠に、あなたも知っての通り、彼は五歳という若さで、全宮学園Sクラスに在籍している」


「それは、ヤマトの助力があったからだと、ボーレから聞いておりますが?」


 ロコの派閥には、ボーレも入っている。

 ケムスから見て、右側二つ目の席に腰をかけている。


 ボーレは『不摂生な見た目』+『あんな性格』なので、

 色々と誤解されがちだが、

 実は、けっこうハイレベルな天才だったりする。


 ちなみに、ボーレが、この会議に参加している理由は、

 『ヤマトの敵側に回りたくなかったから』、というのが大きい。


 もちろん、それだけで、『ロコの側』に回ろうと決めたわけではない。

 色々と考え、悩んだ末に、

 ボーレは『ロコ&ヤマト』の方に賭けることにしたのだ。


 当然『100%の勝算』があるわけではないが、

 しかし『エリアBの支配形態にモノ申せる地位にまで辿り着く可能性』が、

 『彼女たち』にはある気がした。


 まだ幼いながらも、

 しかし、輝くような才能を見せつける美少女二人に、

 ボーレはじめ、ここにいる全員が、

 大きな未来を夢見てしまった。


 『派閥に加わらなかった者たち』の視点で見れば、

 『ロコにつくなど頭が悪すぎる』という結論で統一されている。

 それは間違いのない事実。

 しかし、ロコの派閥に加わった者たちが、

 みな、大きな未来を見据えているというのも、また事実なのである。


 ――ちなみに、言っておくと、

 ケムスたちは、ロコが、

 『望む革命を果たすために必要ならば、エリアBだけにとどまらず、エリアAに殴り込みをかけ、【完全院リライト】を抹殺することも辞さない』という覚悟を積んでいる事までは知らない。


 ケムスたちの『全宮ロコ派閥』に対する認識は、

 せいぜい、

 『全宮家という与党に対抗する、ちょっと声の大きい野党』ぐらいである。


 『ケムスたちの望まない形』で『全宮家』が暴走した時のストッパー要員になりたい。

 ――というのが、ロコ派閥に加わった理由の大半。


 めちゃくちゃ単純な言葉で言うと、

 『全宮ロコという後ろ盾を得て、世界に対する発言権を得たい』。

 それが、ロコ派閥に加入した者たちの本音。


 アギトやテラやルルは、すでに、自分の勢力の地盤をしっかりと固めてしまっている。

 彼らの派閥は、上から下まで、ガッチガチに固められているため、

 いくら優秀であろうと、いまさら、若手が食い込める余地はない。


 『野心ある者たち』にとって、

 ロコの勧誘は、地獄への片道チケットであると同時、

 明確な救いの手でもあったのだ。




 ――ロコは、勧誘の段階で、確かに、

 『テラやアギトに反旗を翻すつもりである』と明言している。

 だが、まさか、

 『ガチンコで【軍】をつくって、世界全体を相手取った血の革命を起こすつもりだ』などとは思っていない。


 ここら辺の認識齟齬(にんしきそご)が起きた理由は、

 『ロコ』と『それ以外の連中』の間に存在する、明確な『覚悟』の差。


 全宮ロコの覚悟を正確に認識できる者など、ここにはいない。

 彼女は狂っている。

 完全に壊れてしまっている。

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