58話 可能性のある選択肢。

 58話 可能性のある選択肢。


「かかかかか、解除、解除、解除ぉおおお!」


 音速の解除。

 極限の圧迫感から解放されたゲンは、


「ぶひゅー、ぶひゅー……うえっ……おぇ……しんど……いや、しんどっ! マジか、おい! きっつぅ! むりむりむりむり! ぶはぁ……っはぁ……ぅえっ!」


 脂汗にまみれながら、

 何度となく深呼吸をくりかえす。



 ――その様子を見ていたセイバーリッチ・プチは、

 アホを見る目で、


「……何がしたいんだ?」


 と、呆れ全開にそうつぶやいた。



「……はぁ、はぁ、はぁ…………ぃ、いや……えっと、だから……俺は、『あいつ(トウシ)』ほど、天才じゃないけど……はぁ、はぁ……根性だけなら、勝ってなくもないかなぁ、と思って……根性が重要になるスキルを使おうとして……ゲロはいた……←今ココ……」


「……なんていえばいい? これ、なんていえばいい?」


「……笑えばいいと思うよ」


 そう言いながら、ゲンはゆっくりと起き上がり、



「すぅ……はぁ……」



 と、再度、深呼吸をかましてから、


「ぃ、いやぁ、まさか、ここまでクソスキルだとは思わなかった……しんどすぎるだろ。呼吸の一つもまともに出来なかったじゃねぇか……」


 つぶやきつつ、


「あんなもん使いもんになんねぇ……」


 現実を理解すると同時、

 『ならばどうする』と頭をまわす。


「サイコジョーカーは頼りにならねぇ……となると、残されたスキルは、激昂迅雷モードだけ……正直、それだけじゃ、勝てる気しねぇなぁ……ここまでの戦闘結果から算出した限り、絶対的に出力が足りてねぇ気がする」


 未来を想う。

 この戦いの先。

 冷静に、

 自分と相手の差を想う。


(……サイコジョーカーの長時間運用は不可能。ハッキリと分かった)


 『あれに長時間たえられる変態は【生き物】として完全に間違っている』

 などという失礼な感想すら抱きつつ、

 心の中で、


(……汎用性を求めた長時間運用は無理だが……死ぬほど覚悟を決めて、極限まで気合を入れた状態なら……十秒……いや、一瞬ぐらいは耐えられ……なくも……ない可能性がなくもない……)


 そこらの一般人とは『積んでいるエンジン』が違うので、

 『サイコジョーカーの圧迫感』に対して、

 『完全にお手上げ』というわけではない気がしないではない今日この頃。


(あくまでも一瞬……ちょっとした一瞬の『一発こっきり』が限界……)


 サイコジョーカーの圧力はハンパではないため、

 『普通の運用』は絶対に無理。


 ほんの一瞬だけ『ブースター』として使うのが限界。


(……一撃にかけるしかねぇ……激昂迅雷モードで、ゲームメイクをして、ここぞという時に、サイコジョーカーでブーストをかけた『最強の一撃』を叩き込むしか……選択肢がねぇ……)


 頭の中で『現状に対する理解』を強める。


 もちろん、ゲンは『脳ミソが死んでいるアホ』ではないので、

 他にも、いくつか戦術プランは浮かんでいる。

 『実現性の薄い選択肢』なら無限にある。


 しかし重要なのは、『可能性のある選択肢』であり、それは極めて少ない。


 彼我の差を考えれば、

 『後先考えない全身全霊の神風特攻』しか道はないのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る