お兄が死んだら、オイちゃんは跡(あと)を追いまちゅね

 お兄が死んだら、オイちゃんは跡(あと)を追いまちゅね


「俺の無限転生をガチで殺すとなれば、さすがに、1か月くらい……いや、半年くらいは魔力とオーラをためないと難しいだろう」


 無限転生の殺し方を正確に理解しているわけではないので、

 的を射たことなど、何一つとして言えないのだが、

 しかし、これまで200億1万年も付き合ってきたスペシャルなので、

 その『イカれっぷり』と『頑固さ』は重々理解できている。


 だから『そうとう積まなければ殺せないだろう』と想像するくらいはできる。


「それに、『投げっぱなしには出来ない案件』がいくつか残っているから、今日・明日で死ぬってわけにはいかない。最低限の責任くらいは果たしてから逝くさ」


 そう言ってから、センは、

 膝の上のシューリの足を優しく横にどかしつつ、

 ゆっくりと立ち上がり、

 うーん、と、伸びをしながら、


「とりあえずは引継ぎ作業からだな……宝物庫の整理もしておかないと……考えてみたら、結構、身辺整理に時間がかかりそうだなぁ……んー……よし、決めた。一年後に死のう」


 具体的なスケジュールをかためると、

 センは、シューリに視線を向けて、


「俺に会えるのも、あと一年だけだと考えたら、『俺嫌いが止まらないお前』でも、さすがに、少しは寂しいんじゃないか、シューリ。どうだ? ん?」


 期待を込めたそのまなざしに対し、

 シューリは、冷めた目をソッポに向けて、

 髪をいじりながら、


「そうでちゅね。寂しくて死んじゃいそうでちゅ。おそらく、お兄が死んだら、オイちゃんは跡(あと)を追いまちゅね。だから、おねがーい、どうか、しなないでー。うわーん。うわーん」


「……すごい……こんなに心のこもっていないセリフを耳にしたのは生まれて初めてだ……結構、長いこと生きてきたが、まだ、俺に新鮮な気持ちを味わわせることができるとは……さすが、俺の師匠だ。ハンパねぇ」


 実際のところ、先のシューリのセリフよりも、

 もっと『棒な発言』を耳にしたことは多々あるが、

 まあ、そこは言葉の綾ということで。


「……っと、そろそろ、スールが起きるな……」


 そうつぶやくと、

 センは、


「バンプティの方は、多少『残って』もいいから、放置でいいが、スールの方は、ちゃんと後処理しておかねぇと」


 責務の一つを果たすべく、

 シューリに視線を向けて、


「じゃあ、また今夜」


 そう言って、瞬間移動でその場をあとにした。


 余韻を見つめながら、

 シューリは、大仰なタメ息をつきながら、

 天を仰いで、渋い顔で、


「あのバカ、ほんと、マジで、ないわー」


 心底、しんどそうな声でそうつぶやいた。






 ★






 目を覚ました時、

 スールは、事務所の簡易ベッドで横になっていた。


「……仮眠室……事務所の……」


 ここで目を覚ましたことは何度もあるので、

 『自分がどこにいるか』は、すぐに理解したスール。


「どうして……ここに……あれ?」


 記憶喪失にでもなったのかと疑うほど、

 頭の中が、まだらに白くゆがんでいた。


(頭が……重い……なんだか、記憶が……かすれている……)


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