すべての幸福に感謝する。

 すべての幸福に感謝する。


「しつこい男は嫌われまちゅよ。オイちゃんに嫌われてもいいんでちゅか?」


「もう、これ以上ないってくらい嫌われているから、なにも怖くねぇ。失うものがない奴隷だけが皇帝に勝てる――そういう気持ちで、俺は今、お前と向き合っている」


「オイちゃんの感情を甘く見てもらっちゃ困りまちゅね。このシューリ・スピリット・アースは、怒りゲージが消費されるたびに狂乱度がはるかにます。その怒りゲージを、あと2本も、オイちゃんは残している。その意味がわかるな?」


「恐ろしさと絶望のあまり、うまれてはじめて涙を流しそうだ。頼むから、残り2本のゲージは永遠に封印しておいてくれ。これ以上、情緒不安定に加速がかかったら、さすがの俺でも戦意喪失を免れない」


 流れるように冗談を並べていくセン。

 淡い時間が、ゆっくりと流れた。


 会話の切れ目を感じたセンは、

 ふぅ、と、少しだけ質量の大きいタメ息をついて、


「……」


 視線をシューリから外し、

 ここではない『どこか遠く』を見つめながら、

 静かに、


(本気で死ぬと心に決めると……なんだか、世界の色が少し変わって見えるな。今まで、少しセピア色だったが、今は、妙にハッキリとした色調に感じる)


 天を仰ぎ、

 少しだけ深く呼吸をする。


(俺みたいに壊れた男でも、やはり、ガチで死ぬとなると『一抹の寂しさ』を感じるらしい。どうやら『センエースって概念』にも『人らしさみたいなモノ』が、ちょっとは残っていたみたいだ。くく……)


 おかしそうに笑いつつ、

 自分の人生を振り返っていく。


 頭の中で、

 最大のライバルの顔を思い出しながら、


(ソンキー、お前がいてくれて、本当に助かったよ。おかげで、アポロギスを倒した以降も、戦う相手に悩まなくてすんだ。できれば、お前にも、究極超神化6に届いてほしかったが……究極超神化6に届かなくても、お前は十分に強かったよ)


 ソンキーがいなかったら、と考えて、

 センは少しだけゾっとした。


 どれだけ磨いても、それをぶつける相手がいない恐怖。


 感情の問題で、

 『シューリが相手だと、どうしても全力の暴力はふるえない』、

 という前提がある以上、

 ソンキーがいなければ『戦闘の面』においては、

 本当の『一人ぼっち』になるところだった。


 孤高を愛しているのは事実だが、

 『カラッポの一人ぼっち』は許容できないという、

 きわめてワガママな自意識のバケモノ。


(お前には本当に感謝している。……だから、限界に達したお前と戦って、どっちが強いか決めておきたかった……みたいな未練もなくはない……)


 だが、

 と、心の中で接続詞をつけて、


(しかし、突き詰めて考えると、やはり、どこかで『どうでもいい』と思ってしまう。もし、俺たちの可能性が無限だったなら、きっと、また、別の感情を抱くんだろうが……カンストが決まっている世界での勝敗は所詮、ジャンケンだからなぁ……)


 可能性が無限だったなら、

 『どっちがどれだけ積んだか』、

 『どちらの資質がより優れているか』

 それらを競い合う純粋な勝負にもなりえるが、

 現状では、どう頑張っても、そういう闘いにはなりえない。


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