OKでーちゅ。

 OKでーちゅ。


「あー、ほんと、お兄はオイちゃんをイライラさせるのがうまいでちゅねぇ。全力でボコボコにしたいでちゅ。ケツの穴から手をつっこんで奥歯ガタガタいわせてやりたいでちゅ」


「それは、ボコボコにしたことになるのかな……ベクトルが違う気がするんだが」


 シューリの怒りを、軽いボケだと判断したセンは、

 柳のように、軽く受け流したうえで、


「ほんとさぁ……俺は、お前の弟子として、結構、いろいろと尽くしてきた自負があるわけよ。だから、なんで、そんなに嫌われてんのか、マジで不明すぎて怖いんだが」


「胸に手をあてて、よく考えてみなちゃい。そして、死をもって償いなちゃい」


「償いとして実行するわけじゃないが、とりあえず、お望みどおり、死ぬことにしたから、マジで、約束通り、ゼノリカのことを頼んだからな」


「OKでーちゅ。ゼノリカって、なんのことかわかんないけどぉ」


「わかんねぇのにOKを出すな。ゼノリカはお前が、すでに、数千年単位で所属してきた歴史のある組織だよ」


 本日、何度目かわからないタメ息をついてから、


「……記憶力の低下に、情緒不安定……更年期がとまらねぇな、おい」


 もちろん、センも、

 シューリが本気で、

 『ゼノリカという概念を忘却している』、

 などとは思っていないため、

 呆れ交じりの軽い感じで流して、


「ゼノリカの頂点なんざ、お前からすれば、ゴミみたいな仕事だろう。そんなことはわかっているよ。くだらねぇことを頼まれてめんどくせぇっていう、その気持ちはよくわかる。ぶっちゃけ、俺だって、ベクトルこそ若干違うものの、似たような観念は抱いているワケだからな。……だが、これは、お前以外には任せられねぇ仕事だ。だから、どれだけウザがられようと、頼まないわけにはいかない」


 センエースの中では、

 シューリ以外に『自分の後を任せられるヤツ』は存在しない。


 潜在能力だけで言えば、

 ソンキーやタナカトウシなんかも候補に挙がるが、

 どちらも、『センの中』の判断基準においては、

 諸々の面で、シューリよりも劣っている。


 ※ 実際のところどうなのか、という視点で話をすれば、

   シューリの資質は、確かに素晴らしいのだが、

   向上心を中心とした精神面を踏まえて考えると、

   『トウシやソンキーよりもシューリの方が優れている』とは、

   ――正直いって、言い難いところがある。


   そして、もはや言うまでもないが、

   『考え方の根本』でモノを論じるのであれば、

   彼女は『ゼノリカの頂点』として、

   『この上なく相応しくない神』である。


「今日、かなり活(い)きのいいヤツを見つけたが、あいつはまだツボミで、『可能性の塊』って段階でしかない。遠い遠い未来のいつか、『あいつに任せる』という判断をするのは許容範囲内だけれど、その日がくるまでは、お前がゼノリカの頂点だからな」


「はいはいはいはい、わかりまちたよ。何度も言わなくていいでちゅよ、しつこいでちゅねぇ。しつこい男は嫌われまちゅよ。オイちゃんに嫌われてもいいんでちゅか?」


 まったく聞く気がないトーンでそう言ってきたシューリに対し、

 センは毅然とした態度で、


「もう、これ以上ないってくらい嫌われているから、なにも怖くねぇ。失うものがない奴隷だけが皇帝に勝てる――そういう気持ちで、俺は今、お前と向き合っている」

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