芸術になった鏡。

 芸術になった鏡。


(このままでは、ただの残骸……己の弱さに飲み込まれたままの戦犯で終わってしまう……それは認められん……『ゼノリカを支える剣の一本』である、この私が……そんな無様を晒したまま終わることなど……許されん!)


 ギリギリと、

 魂魄が軋む。


 命の器が、

 『もうダメだ』とわめいている。


 聞こえている。

 けれど、


(全身が軋む……死を感じる……少しでも気を抜けば爆発してしまいそう……苦しい……辛い……しんどい……痛い、キツい、死ぬほど重たい……とてもじゃないが、耐えられない……)



 だからこそ、




「……それでも……」




 ブチブチと、何かがちぎれる音がする。

 ぶっ壊れて、歪んで、腐って、



「それでも……それでも……それでも……」



 そして、

 だから、



「――叫び続ける勇気を――」



 バンプティが抱き続けた覚悟と、

 スールの胸に芽生えた想いが、


 真に重なりあい、正しく織り成って、

 ――本物の力になる。



 目の前に出現したのは、

 荘厳な輝きを放つルーレット。



 二人が積み重ねてきた全ての結晶。


 バンスールは、

 折れるほどに、奥歯をかみしめて、



「まわれっ……バンプティルーレット……っ!」



 命令を受けて、バンプティルーレットは、唸りをあげて回転する。

 過剰な回転数は覚悟の証。


 ギュンギュンと加速していく。


「私は……栄えあるゼノリカの天上……九華十傑の第十席序列二位……」


 奥歯をかみしめ、

 覚悟をうたう。


「神の王に仕える剣――バンプティ」


 九華の十席。

 その覚悟は伊達じゃない。


 決して『威張り散らすための勲章』なんかじゃない。

 全てを賭して『命』に尽くすと誓った覚悟の証。


 ゼノリカを支える剣。

 覚悟の結晶。

 その情動が、新たなる狂信者スールの想いに支えられ、

 確かな一つとなる。


 歪みが調律されていく。

 ただのバグではなく、

 円寂(えんじゃく)に届くほどの光になる。


 輪廻のサイクルを超えて、

 バンプティは、

 一つ上の世界に届く。


 命じられるまでもなく、

 ルーレットは、ビシィっと、音をたてて停止した。

 まるで『そこにしか止まる気はない』とでも言いたげに。


 12時の矢印が示した答え、

 それは、




「――『鏡華酔月(きょうかすいげつ)』、発動――」




 バンプティの右手に出現した、歪な輝きを放つ鏡。


 その鏡は、まるで奪い取るように、

 センエースという強すぎる輝きを、

 酷く強引に、その鏡面へ映しこみ、

 そのまま、さけぶように発光した。


 輝きは、鏡を通じて、

 バンプティの中で膨らんでいく。


 そして、その光を飲み込みながら、

 バンプティは言う。




「――究極超神化6/ギルティプラチナ・カリギュラム――」




 宣言と同時、白銀の輝きに包まれるバンプティ。

 ひどく罪深き光。

 誓いを糧にして、狂気を貪るクリスタル。

 咎人は二人。

 譴責(けんせき)の底で鏡像を磨く。

 しかして、

 その歪な輝きは、

 頑健なる想いを器として、

 無限の軌跡をつかみ取る。


 光が収束した時、

 そこには、

 最果てに届いたバンプティが立っていた。


 それを見て、センは、


「は、はは……」


 一度、乾いた笑い声をあげて、


「とことん、コピーか……。閃世界によるバフまで含めて盛大に丸ごとパクっていくスタイル。徹底的に、最後の最後まで。……純粋で無垢な可能性の鏡。そこまでいけば、もはや、大したものだと感嘆できる。ハンパなコピーは『目障(めざわ)りな贋作(がんさく)』だが、それだけ突き詰めれば『超級の芸術』たりうる」


 心からの賞賛を投げかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る