バンスールとセンエースの差。

 バンスールとセンエースの差。


「一個、一個が、なんか、こう……ヌルい! コピーが荒い! 模倣するなら、もっと、ちゃんとしろよ! それじゃあ、永遠に、オリジナルには届かねぇ!!」


 頭をかきむしりながら、


「そんな『浅瀬でパシャパシャやっているだけ』じゃ、無限を積んだって、俺には勝てねぇんだよ! 今のお前程度だったら、究極超神化3でも余裕で勝てる! いや、もう、本音をブチまけてしまうが、今のお前みたいなカスは、神化だけでも、どうにか出来るレベルだ!」


 神化だけでは流石に厳しいのが現実だが、

 しかし、理論上、不可能ではない。


 今のバンスールとセンエースの間には、

 それだけのハッキリとした差がある。


「地に足がついていない! 『アライメント』がショボすぎる! 『ぼくがかんがえたさいきょうのバケモノ』をやりたいのは何となくわかるんだが、あまりにも稚拙で出来が悪い!」


「……」


「骨組みは大胆に! ディティールは丁寧に! それが武の基本だ! お前は基本がまったくなっていない!」


「……」


「グンときて、バーンときて、ズガーンだ! わかったな! さあ、こい!」


 そういって、武を構えなおすセン。

 その構えは、徹底して基本に忠実な王道スタイル。

 『自分を教本にしよう』という考えが透けて見えていた。


 だから、

 そんなセンの姿を見て、

 当然のように、



「勝てるワケが……ない……」



 バンスールは、

 死んだ目で、そうつぶやくしかなかった。


 まるで、脳が焼かれていくみたいに、

 戦意がドロドロと溶けていく。



「無意味だ……何をしようと……」


 バンスールの中で、

 『絶対に勝てない』という絶望が、

 絶対の真理となって根付いてしまった。


 明確で明瞭な心ポッキー。


 バンスールが『根本からグキった』のを感じたセンは、

 焦った顔になって、


「お、お、落ち着け。安心しろっ」


 グズリだした赤子を諭すように、


「お前は強い。ちゃんと強い。まだ足りていないだけだ。お前はまだいける。何がどうとは言えんけど、そんな気がしなくもない――みたいな可能性をビンビン感じなくもない」


 言葉を選んでいるのは感じるのだが、

 しかし、その配慮がヘタすぎて、まったく届いてはいない。


「お前は強くなれる。だから、がんばれ。もう、あと少しだけ頑張ってみよう。さあ、というわけで、もう一度、ルーレットをまわしてみよう。大丈夫、大丈夫、いける、いける。お前は強い子だ」


「……」


 ようやく、バンスールは気づいた。

 『バカにしやがって』

 ――とすら思わなくなったことで、


 実は、最初から、

 『バカにされてすらいなかった』という事実に届く。


(……ふざけきっている……こんなことが……あっていいのか……)


 茫然としてしまった。


 センエースは、決して、バンスールを小バカにしているわけではない。

 字面だけ見たら、完全にそうなのだが、

 しかし、実際のところ、センエースは、

 バンスールに対して、ガチンコで、

 慰めの言葉を投げかけているだけ。


 『可能性だけ』はなくもない『不器用で豆腐メンタルなクソガキ』に、

 あれこれ試行錯誤しながらモノを教えている教員。


 それが、現状における、

 バンスールとセンエースの関係だった。


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