永遠に届かない。

 永遠に届かない。


 バンスールは、贅沢にも、

 神の王から、丁寧な解説を受けた。

 だが、あまりにも丁寧すぎて、


(……わからない……なにも……)


 バンスールには届かない。

 1ミリも理解できない。


 センエースの解説は続いた。

 神の王は、丁寧に、丁寧に、

 『ソンキー・ウルギ・アースの武』という、

 『異質に芸術的な天才性』を伝えようとした。


 ――が、


(ソンキー・ウルギ・アースの神業。それほどの高みであっても……センエースには届かないのか……)


 ソンキーを知れば知るほど、

 センエースが遠くなるばかり。


(理解できない……つかめる気がしない……それほどの、遥かなる高みに在る『闘神の神業』をもってしても、超えることができない壁の向こう……それが……センエースの世界……)


 『無窮(むきゅう)の積み重ね』に溺れる。

 清澄(せいちょう)さの奥で、

 『弱さ』という極悪な牙がギラリと光る。


 ソンキーを知るほどに、

 センエースを知るほどに、


 バンスールの中で、

 自信という自信が、根こそぎ削がれていく。


(オレは……強いのに……)


 それは間違いない話だった。

 闘神の器を手に入れたバンスールは、

 間違いなく『清雅(せいが)な高み』にある。


 誰が相手でも無双できる究極の力。

 本来であれば『おれ、また何かやっちゃいました?』を通せる、

 チートの塊みたいな存在に至っている。


 だが、センエースの前では、何も通らない。


 引くほど自分と向き合ってきた力に、

 引くほど運命と向き合ってきた力に、

 引くほど現実と向き合ってきた力に、


 『何も積んでいないありふれたチート』を通せるわけがないのだ。


 『近しい領域』で、

 真正面から武を交わし合ったことで、

 バンスールは、正しく理解した。


(強すぎる……か、勝てる気が……しない……勝てるわけがない……)


 スペックで言えば、確実に、バンスールの方が上である。

 相性的にも、バンスールの方が圧倒的に有利。

 『ありきたりな数字』の上で言えば、

 バンスールは、センエースを超えている。


 けれど、それでも、

 バンスールは、

 センエースに勝てるイメージを、

 一ミリたりとも描くことが出来なかった。


 そんなザマだから、

 武を交わし合う中で、

 ついには、センエースもイラっときたらしく、

 たまりかねて、


「ヌルいって、だからぁ!」


 つい、そう叫んでしまった。


「もっと、こう! あるだろ! こう、ガツンとくる感じで! わかんないかなぁ! こう、バーンときて、グーンみたいな!」


 決して冗談を口にしているわけではない。

 もはや、これほどの領域に至ってしまうと、

 『明確なロジック』で伝えることは出来ない。


 自分でつかむしかないのだ。

 コピーのままでは永遠に届かない世界がある。

 『暴力的な自分』を表現する唯一無二の極み。

 そのコツだけは、

 自力で会得するしかない。


 けれど、

 『オリジナル』の『プライマル化』は、

 果て無き研鑽を必要とする。


 ゆえに、


「なんで、そう『微妙に弱い』んだよ!」


 センは憤る。


「一個、一個が、なんか、こう……ヌルい! 芯がないから、響かない! つぅか、単純にコピーが荒い! 模倣するなら、もっと、ちゃんとしろよ! それじゃあ、永遠に、オリジナルには届かねぇ!!」


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