混沌融合。

 混沌融合。


「――待たせたな。それでは、続きをはじめようか。本当の『オレ』の強さを教えてやる」


「ついには表層に出てきたか。お前の異質さも、なかなか面白い」


 カドヒトは、冷ややかな眼差(まなざ)しで、


「ちなみに、お前はなんていうんだ? 名前を教えてくれよ」


「最初に言っただろ。オレはオレを理解していない。オレはただの壊れたデータ。しかし、自分の可能性は理解できている。オレは強大な器。オレという器に、バンプティの可能性が注がれた。それが現状」


「自分の言いたいことだけ言うなよ。俺は名前を聞いている」


「結局のところは、バンプティさ。それ以上でも、それ以下でもない」


「……そうかい。しかし、区別は必要だ。だから、俺はお前のことを、バンプティBと呼ぶことにする」


「好きにすればいい。名前など、どうでもいい」


 そう言うと、バンプティBは、


「まわれ、カオスバンプティルーレット」


 宣言と同時、

 バンプティが顕現させていた『普通のバンプティルーレット』は砕けちり、

 その破片が、カオスなルーレットとなり、

 ぐるぐるとまわりはじめた。


「とまれ」


 命令を受けて回転が止まる。

 12時の位置の矢印が示したのは、


「――混沌融合――」


 宣言すると、

 バンプティBの肉体が黒い霧になった。


 そして、その霧は、



 ――少し離れたところで見学していたスールの体を包み込む。


「なっ……なんだっ……」


 逃げようとしたが、

 しかし、そんな余裕はなく、

 一瞬でからめとられる。

 どうにか払おうとしているが、

 黒い霧は、スールの奥へと侵襲していく。


 ――その様子をみたカドヒトは、


(……混沌融合ねぇ……どんな融合か知らんけど、今のあいつがスールと融合したところで、タカが知れていると思うが……)


 頭の中で『ゴタン(悟〇×サ〇ン)』をイメージしつつ、

 黒い霧と戦っているスールに、


「たすけようか?」


 そう声をかけると、

 スールは、キっと視線を強めて、


「不要です! 自分の身は自分でまもる! 俺は、リーダーに寄りかかるために、反聖典に入ったわけじゃない!」


「そう言うと思ったよ……お前の頑固さは理解できている」


 そうつぶやくと、

 カドヒトは腕を組んで、


(この段階で処理しておけば、魂魄解除の手間が増えずに済むんだが……まあ、いいさ。お前の頑固さと、俺のワガママは一致している。融通がきかないワガママな変態だからこそ、俺たちは、反聖典なんていう、イカれたコトが出来ているんだ)


 心の中でそうつぶやきつつも、ゆるやかに、静観の構えをとった。


 そんなカドヒトの視線の先で、

 スールは必死に、黒い霧に抗おうとしているが、

 しかし、


「うぐっ……ぐぅ……っ!!」


 スールの抵抗を、黒い霧はあざ笑う。


『ギギッ。無駄だ、スール。オレは、貴様ごときに抗い切れる絶望ではない』


「ぐぅう! くっそぉおおおおおおお!!」


 その叫びを最後に、

 スールは、バンプティBに飲み込まれていく。

 グルグルと、粒子が不定形の揺らぎをみせる。

 魂魄がドロドロに溶けていく。



「「ぉおおおおおっっ!! うぉおおおおおおおおお!!」」



 そして、その魂魄は昇華される。

 有機的に、一つになっていく。


 まるで遮光カーテンみたいに、

 張り巡らされた混沌の揺らめきが、

 スールの感情を整理して並べて揃えて、


 そして、


「……ぶはっ!!」


 一致する。

 混ざり合った二つの心。




「完成。……バンプティとスールが合体して、バンスールってとこかな」




 などと口走る『バンスール』に対して、

 カドヒトは、


(まあ、当然、奪われるわな……さすがに、スールじゃ、バンプティBには抗いきれねぇ。そして、やっぱり、ゴタン化しただけ。普通に弱くなっている)




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