あなたは……

 あなたは……


「強さなんてものは、結局のところ、ジャンケンの上手(うま)さなんだよ。もっと正確に言えば『ジャンケンにうまいもクソもない』という『実は最初から明瞭』だった『当たり前の理解』にいたって、ようやく最果てのステージにたてる」


 カドヒトは、タメ息まじりに、どこか遠くをみつめながら、


「ふざけた話だと思わないか? 運ゲーにもちこめたら、ようやく最強。矛盾しているのかどうかすらイマイチよくわからない、奇妙な概念……けど、それが『最強』なんだから仕方がない。ほんとうに……虚しい話だ……」


 ボソっとそうつぶやく。


 カドヒトの言葉を、まっすぐに受け止めたバンプティは、

 だから、



「あなた……は……」



「ん? どうした? なにか聞きたいことでもあるのか?」


「……あなたは……」


 そこで、バンプティは、カドヒトの目をじっと見つめて、






「……神帝陛下……ですね……」






 貫くような言葉が届く。

 いまだ『疑問符の余韻』は消えていないが、

 しかし、どこかで『確信めいた色』が刻まれた言葉。


 『そんなわけがない』という想いと、

 『もはや、そうであってくれなくては困る』という想いが、

 ぶつかりあい、せめぎ合い、ぐちゃぐちゃになって、

 気づけば、

 ポロっと、口をついていた、拙い問いかけ。


 そんな問いを受けて、

 カドヒトは、


「……」


 数秒だけ黙ったが、



「だとしたら?」



 そうなげかけると、

 バンプティは、息をのんでから、


「……どうして……」


 当たり前の疑問を投げかけた。

 いろいろな『どうして』が含まれた言葉。


 それを受けて、

 カドヒトは、


「どうして、か。まあ、理由はいろいろあるだろうな。人は多くの理由を背負って生きている。神の領域に至っても、そこに変わりはない」


 そうつぶやいてから、


「まあ、俺は神帝じゃないから、『もし俺が神帝だとしたら』という仮定は、永遠に『意味のない妄想の域』を出ないんだがな。『今』の俺は真実の伝道者カドヒト・イッツガイ。それ以外の何者でもない」


 最後に、無意味なフォローを入れるカドヒト。



 ――そんな様子を、少し離れた場所で見ていたスールは、


(確かに、リーダーは『一歩違う高み』にいるが、だからって『センエース扱い』は違うだろう……何を考えているんだ、バンプティ猊下は……)


 心の中で、バンプティの言動に対して疑念を抱いていた。


 触れてみなければわからない輝き。

 色々な歯車が、ズレて、歪む。

 他者や現実を理解することの難しさ。


 ただ、スールは、そこで、


(もし、リーダーがセンエースだったと仮定したら……)


 そんなことは、今まで、もちろん、考えたこともなかったが、

 しかし『その仮定』を前提にモノを考えてみると、

 いろいろな思想――妄想が頭の中を駆け巡る。


(もし、仮に、万が一そうだったとしたら……きっと、俺は、センエースという王を認められるだろう……『合理』と『強さ』を併せ持ち、どんな時でも、清廉(せいれん)高潔であり続け、その上で『過剰に美化された聖典に対する忌避感』という『きわめて常識的な視点』を持つ超人。理想的だ。すべてにおいて……もし、リーダーがセンエースだったとしたら、俺にとっても、理想の『道標』……)


 ひととおり、妄想を並べ終えると、

 スールは、首を横に振って、


(……妄想が過ぎるな……愚かしい……)


 自分の考えを、自分で否定する。

 否定するにしても、肯定するにしても、

 スールの中では、根拠があいまいすぎた。

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