虚しい真理の羅列。

 虚しい真理の羅列。


「あと、200億年ほど修行すれば、俺相手でも、かすり傷くらいは、つけられるようになるだろう。ぃや、200億じゃムリか……プラス、5000年くらいは積まないと、かすり傷までは厳しいかな」


 上から降り注ぐ言葉が、

 バンプティの耳に触れるが、

 当然のように、右から左へと流れていく。


 今のバンプティは、解決しえない不可思議を抱えて呆然としていた。


 理解できない速度で重心をさらわれて、

 気づいた時には仰向けで寝転がり、

 まっすぐ天井を見つめていたバンプティ。


 痛みはなかった。

 先ほどのカドヒトは、

 まるで『生まれたての子猫』でも扱っているかのような繊細さで、

 バンプティの体を横に流したのだ。



 ――その様子を見て、

 少し離れた場所で見学しているスールは、ボソと、


「……バンプティ猊下の機動魔法……案外、見掛け倒しだったな……それとも、リーダーが強すぎるだけ? ちょっとよくわからないな……」


 スールのレベルでは、

 二人の闘いを『理解』することは出来なかった。


 というか、カドヒトの武を理解できる者など、

 神界の深層を隈(くま)なく探し回っても、そうそういない。


 ――ゆえに、




「今……私は……何をされた……?」




 戦闘中だというのに、そんな質問を投げかけてしまうバンプティ。


 自分でも『イカれた質問』だということは理解しているのだが、

 しかし、あまりにも自分の現状が理解できなさすぎて、

 つい、口からポロっと飛び出してしまったのだ。


「ちょっとだけ『良い感じ』に、お前を投げた。それ以上でも、それ以下でもない」


「……」


「体術ってのは、極めれば、相手の力を利用できるようになる。魔法やスペシャルを使わなくても、世の中の法則を熟知していれば『膨大な存在値の差』をひっくり返すことも、そう難しくはない。まあ、もちろん『ちゃんと高みに至った者同士』の闘いだと、お互いに『ソレ』を知っているから、膨大な数値の差をひっくり返すことはできなくなるがな」


「……」


「多くを知って、――『数値には意味がない、キリっ』というイキった時期を経て、――『くそが、結局、数値も大事じゃねぇか』と、ふてくされる反抗期を経て、――『あれ? でも、やっぱり、数字って、あんま意味なくね? あ、いや、でも……』という困惑期を経て、さらに、――『あー、もう、わからん! もういい、知らん! 寝る!』という不貞寝(ふてね)期を経たりもして……そうやって、いろいろ知って、積み重ねて、多くを出来るようになって……真理を知った気になったり、自分のカラッポさを理解したり、全部がただの鏡でしかないって現実に気づいたり……そんな諸々の時期を経て、その先に待っていたのは、結局のところ、ただのジャンケンだった」


 タメ息まじりに、どこか遠くをみつめながら、


「……虚しい話だろう? 強さなんてものは、結局のところ、ジャンケンの上手(うま)さなんだよ。もっと正確に言えば『ジャンケンにうまいもクソもない』という『実は最初から明瞭』だった『当たり前の理解』にいたって、ようやく最果てのステージにたてる」

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