額にM字がついた破壊王子。

 額にM字がついた破壊王子。


「感じるよ。バンプティの叫び。抗おうとしているのを、確かに感じる」


「それは、貴様の妄想だ。『私』は『オレ』と一つになることを望み、重なり合った」


 バンプティの『表層』は仮バグの浸食を受け入れている。

 額にM字が刻まれた時の破壊王子を思い出せば、

 今のバンプティの現状が、よりよく想像できるだろう。


 超えられない壁の前で、のたうち回って生きてきた。

 だから、当然のように、

 『理想の強さ』をチラつかされて、心が揺れてしまった。


 惨めで、無様で、貧弱で、

 けれど、

 『積み重ねてきた者』だったからこそ、

 どうしても抗えなかった誘惑。


 ――カドヒトは、


「欲望を刺激されて、抵抗力が薄くなる……それだって、別段、珍しい話じゃねぇ。むしろ、テンプレといってもいい」


 鼻で笑ってから、


「……『才能がない』という事実を抱えて生きてきた人間にしか芽生えない弱さ……そこを包み込まれて、脆くなった。その無様を、俺は否定しない。かつては、俺にだってあった惨めさだ。『自分はよくて、他人はダメ』なんてナメたコトを言うつもりはねぇよ」


 ゆっくりと首をまわす。

 ポキポキと音がする。


「完全に呑まれていたなら説教をくれてやるところだが、バンプティは、まだ抗っている。見ればわかるよ。立派とは言わないが、誇らしいとは言っておこう。……だから、当然、手をさしのべてやるよ」


 ゆっくりと整っていく。


「その程度の寄生を引きはがすくらい、俺ならばワケはない。つぅか、俺がその気になれば、完璧に交わった魂魄を分離することだって不可能じゃない。俺が積んできた覚悟は伊達じゃねぇ」


 そう言ってから、

 カドヒトは、軽く武を構える。


「害虫駆除か……なつかしいな……あのころとはだいぶ趣(おもむき)が違うが……」


 その言葉の直後、

 カドヒトの姿がヒュッと、

 ほぼ無音のままに消えた。


 バンプティ(仮バグ)は、冷静に、カドヒトの軌跡を追う。

 視覚だけではなく、全神経を集中させて、

 カドヒトの瞬間移動にアンテナを張った。


 その結果、


「――決して遅くはないが、見失うほどではないな」


 左斜め後方に出現したカドヒトに、

 右ストレートのカウンターを叩き込む。


「ぶふっ……」


 顔面に一撃をもらったことで、

 軽く鼻血を出すカドヒト。


 ヘシ折れた鼻を魔法で回復させつつ、

 カドヒトは、ニっと微笑み、


「だいぶ鋭い反応だな……この『重み』は、間違いなく『バンプティが積んできた拳』だが、しかし、明らかに『質量』が増している」


 言いながら、距離をとりつつ、


「非常に重い一撃だった。昇華されているのが伝わってきたぜ。なるほど、バンプティは大器晩成型だったか……虫に寄生されたことで、華開き、加速した……壊れて、歪んで、腐って……けれど、積み重ねてきた覚悟には、一つも嘘はないってこと……」


 理解を並べながら、


「その加速、どこまで進めるのか、見届けてやるよ」


 言って、

 カドヒトは、心のギアを一つあげた。


 数値の上だと特に変化はない。

 存在値は170のまま。


 しかし、動きにノビが出てきた。

 踏み込み足がグンと伸びる。

 キレよく、つつがなく、


 カドヒトは、バンプティとの距離に風穴をあける。

 優雅に空間を支配していく。


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