センエースが実在したならば……

 センエースが実在したならば……


 バンプティが積み重ねてきたものは、

 キチンと、仮バグを超えていた。

 バンプティが積み重ねてきた努力は伊達じゃない。


 ――とはいえ『仮バグ』は、純粋虫種のような、

 『HPと防御力が高いだけの雑魚個体』ではなく、

 魔法防御と耐性も優れている変異種であるため、

 存在値に差がある現状だと、

 削り切るのにかなりの時間を必要としてしまう。


 泥試合の様相を呈してきたバンプティと仮バグの闘い。

 それを見ながら、カドヒトが、ボソっと、


「あのバグっぽいのを殺さない限り、この空間から出られそうにないけど……バンプティの覚悟をシカトして加勢するのは、正直、はばかられる……鬼メンドくせぇ状況だ……ぶっちゃけ、かんべんしてほしい……」


 タメ息まじりに、


「一般人を守るためにゼノリカはある……その考えは至極ごもっともだし、神法通りのお手本通りではあるんだが……もっと、柔軟かつ臨機応変な対応ってやつができないもんかね……ていうか、そういう神法もあったよな、確か……」


 そのつぶやきに、スールが、


「微妙なところですね。緊急時の災害マニュアルには、一応、民間人の自衛的な敵性生物との戦闘行為に関する記述もありますが、基本的には、現場におけるゼノリカの判断・指示に従って行動するように、という記載が上位にありますから」


「……法ってのは、テキトーじゃ困るけど、あんまりガチガチにすると、こういう時に困るよなぁ……」


 どれだけ完璧を目指しても、絶対に穴が生まれてしまう。

 その辺を埋めるために、『カドヒト』は、これまで、色々とやってきた。

 『ゼノリカの枠外』にある組織を設立したり、

 神法に対するアンチテーゼを唱えてみたり、

 命の不完全さを説いてみたり、


「どうあがいても、完璧な法は作れねぇ。だからこそ、基盤となる絶対的な『信念』が必要になってくる。その超重要な基盤となるべき『信念』を、『妄想のセンエース』に押し付けているという『現状の危うさ』に、俺以外、誰も気づいていねぇ」


「俺も気づいているつもりですが?」


「お前の場合は、俺とは、また違うんだよ。ここに関してはニュアンスの違いじゃない。実務的な意味合いの違いだ」


「……よくわかりませんね」


「なんで、どいつもこいつも、簡単に俺の言葉を見失うんだ? 実際の話、センエースは、ただの変態だから、そんなバカを『理想』として勘定していたら『痛い目をみる』っていう、マジで、それだけの簡単な話だよ」


「さ、さすがに『バカの変態』は言い過ぎでは?」


 今でも、スールは『聖典の中で舞うセンエース』は空想の産物でしかないと思っている。

 ただ、スールは、カドヒトのことを『信頼』しているので、

 カドヒトが、これだけ強く『実在はした』というのであれば、

 その言葉を信じようとは思える。


 ゆえに、今のスールは、


(センエースという名前の人物は存在したのだろう)


 とは思えている。

 そして、その理解は、


(おそらく、相当な強者だった。三至天帝にも匹敵するような、相当な、別格の強者……)


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