30話 凡才の限界。

 30話 凡才の限界。


(ぐっ……本当に、この虫の存在値が500だとしたら……かなり厄介な戦闘になる……)


 戦闘力に差があれば、100前後の差をひっくり返すことも不可能ではないが、


(この虫……戦闘力の方も、なかなか侮れん……)


 魔法の扱い方、

 バフデバフの撒き方、

 スピーディーで、トリッキーで、テクニカルな回避術。


 洗練された動き。

 『人』との闘い方を熟知しているような動きだった。


 虫種のモンスターは龍種や鬼種と違い低スペックであることが多い。


 種としての傾向は、防御力とHPが高く、

 毒や麻痺などのデバフが得意だが、

 同時にデバフに対する耐性が低く、 

 内包魔力もかなり少量で、素早さも低い。 

 ※ 尋常ではなく素早さが高い個体もいるが、

   その場合は『反比例してHPが低い』など、

   低スペック方向にバランスがとられていることが多い。


 『絶対数』はトップクラスだが、『強力な個体の数』はワースト。

 また『精霊系の対策が出来ていれば同時に処理できる』、

 というのが全世界共通の定石でもあるため、

 いくら努力家のバンプティとはいえ、対虫種の対策は万全ではない。


 いや、努力型タイプだからこそ、

 万全とはいかなかっと言った方が正確か。


 万能の天才型なら、虫に対しても鮮やかに舞えるだろうが、

 不器用な努力家タイプは、かけた時間の分しか力を発揮できない。

 事前の対策が必至な龍種や鬼種に時間をとられすぎてしまったため、

 脅威度の低い虫の対策は『微妙といわざるをえない結果』に落ち着いてしまった。


 こうなってくると、存在値の差が重くのしかかってくる。

 戦闘力に差がなく、対策不足で相性も悪いとなれば、

 存在値の違いが、戦力の決定的差になってしまう。


 そんな、バンプティと仮バグの闘いを見ていたカドヒトは、


「……まったく人の話を聞いてねぇジジイだな。俺は、聖典の教えをバカになんてしてねぇっつぅの」


 ガリガリと頭をかきながら、


「どいつもこいつも、まったく人の話を聞きやがらねぇ。俺は、いつだって……『センエースは、ただのしょうもない変態だから過剰に持ち上げるのはやめろ』って……それだけしか言ってねぇだろうが、昔から、ずっとよぉ……なんで、どいつもこいつも、きわめて頑固なバカなんだ? もういい加減、疲れ果てたぜ。『穴があったら入りたい』とか、そんなレベルはとっくに過ぎて、『自爆して木っ端みじんになりたい』とまで思い始めている俺の気持ちを、少しは察してくれよ、後生だからよぉ」


 小声でブツブツとそうつぶやいていると、

 スールがすぐ横までやってきて、


「リーダー、俺たちも、バンプティ猊下に加勢した方がいいと思うのですが?」


 ボソっとそう声をかけてきた。

 カドヒトは、軽めのタメ息をはさんでから、

 表情を切り替えて、


「……ああ、もちろん、ヤバそうだったら手を貸すさ。しかし、あの調子だと、ギリいけそうだからなぁ」


 カドヒトの見立てだと、

 バンプティは仮バグに勝てる。


 バンプティが積み重ねてきたものは、

 キチンと、仮バグを超えていた。


 対策が足りていないとは言ったが、

 まったくしていないわけではない。


 それに、

 『素早さが高い』とか、

 『バフデバフの扱いが秀逸』とか

 『トリッキーでテクニカルな回避術』とか、

 そういう、それぞれの項目の対処法なら、

 当然、しっかりと対策はしてある。


 だから、敵の輪郭がはっきりしてくれば、

 どんどん『対応の質』は高まってくる、


 バンプティが積み重ねてきた努力は伊達じゃない。


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