ゼノリカを支える柱の一本になれる逸材。

 ゼノリカを支える柱の一本になれる逸材。


「私は賢くないが、バカではない。――だから、私も主を愛した。世界を照らしてくれた命の王に感謝した」


 バンプティは思った。

 カドヒトの『深さ』が理解できてしまった以上、

 きちんと、互いを理解しなければいけないと。


 カドヒトは間違いなく『頭がおかしい変態』だが、

 『無価値な愚者』ではない。

 一つの高みに至った、数少ない本物の超人。


 それほどの逸材を、

 『頭がおかしい』という理由だけで、

 考えなく『ただ排斥する』というのはあまりにも愚策。


(この者は、ゼノリカを支える柱になれる……あるいは『十席』に名を連ねることも可能な本物の器……もし、主への忌避感が誤解であるのなら、それを解くことこそが、ゼノリカに対する何よりの貢献……)


 バンプティは、ゼノリカを愛している。

 バンプティにとって、ゼノリカは全てと言っても過言ではない。


 『誰もが輝く明日を求められる世界』を求めて、

 誰もが必死になって毎日を積み重ねている理想の組織。


 『誰にとっても理想』というわけではないが、

 少なくとも、バンプティにとっては理想の組織。


 だから、バンプティは、慎重に、

 細心の注意をはらいながら言葉を選んでいく。


「貴様は、主と同じ時代を生きたのであろう?」


 先ほどの、カドヒトとスールの会話を、バンプティは少しだけ聞いていた。


 『カドヒトを逃がさないよう、慎重にコトを運んだ』ため、

 『たまたま耳に入っただけ』だが、

 『聞いておいてよかった』と、バンプティは思った。


 『説得』を試みる際、相手の個人情報は、出来るだけ多くあった方がいい。


「なのに、なぜ、主を貶めるような発言をする。貴様が、今、のうのうと生きていられるのも、すべては主が、命がけで世界を救ってくださったおかげ。なぜ、それが理解できぬ?」


「何度も言わせるなよ、バンプティ。センエースは、ただの自己中野郎だ。己の欲望を満たす事しか考えていない利己的で不器用で孤独体質のド変態。バカみたいに磨いてきた力が世界を救う結果につながったのは事実でも、それは単なる結果論でしかない。好き勝手生きていた人間の『力』が、たまたま役にたったというだけ。それを過剰に崇め奉るのは間違いだ」


「……ふむ」


 そこで、バンプティは、カドヒトの言葉を飲み込んで咀嚼する。


 頭ごなしに否定し続けても『平行線をたどるだけ』なのは目に見えている。

 だから、バンプティは、いったん、相手の『叫び』を理解しようと努めた。


 当然、カドヒトの主張を『認めること』などできないし、

 心底から『不愉快』だとも思うのだが、

 しかし、その感情だけを表に出しても水掛け論の戦争になるだけ。


 『叫ばざるをえない想い』を『理解すること』で、

 その先につながる『道筋』が見えるかもしれない。


 そう思ったがゆえに、

 バンプティはいくつかの前提を譲歩して、


「仮に、そうだったとしよう。主の功績が、単なる結果論だったと仮定して……しかし、だからといって誹謗中傷の的にしてよい道理はどこにもない。そもそもにして、大勢の者は、背景よりも結果を重んじる。世界を救ったという『結果』が事実であるならば、わざわざ無為に貶める必要はあるまいよ」

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