本気の対話。

 本気の対話。


(この男は『おそろしく奇妙な言葉』を使う……『理解させる気が全くない物言い』じゃというのに、触れていると、なぜだか『つかめそうな気』になってくる……)


 おそろしく濃厚な三分間。

 決定打には届かない高度な応酬。

 武の交わし合いに一呼吸がついた時、


 バンプティは、乱れたオーラを整えながら、




「……見事な武じゃ……認めよう。ぬしは強い」




 カドヒトが魅せたのは、

 『遥かなる高み』ではなく、

 『同じステージ』の『高み』。


 だから、バンプティは、まだ『冷静さ』を保っていられる。


 ただの『純粋な敬意』にとどまっていられる。

 今のところ、まだ、沈着静穏に『認識』を模索できている。

 理解など到底できるわけがない。

 しかし、まだ、現状と向き合っていられる。


「おそらく、ぬしの『その強さ』は先天的なものではない。認めたくはないが……私と同じで『ノロマな歩み』を愚直に積み重ねてきたもの……」


 三分間の対話(たたかい)で、

 バンプティは、カドヒトの器を理解した。


 『正確な強さ』を理解することは難しくとも、

 『同じ道を歩んだ者』の器を理解することなら不可能ではない。


 カドヒトは、決して、ただのクズではない。

 常軌を逸した器を持つ者。


 バンプティの評価を受けて、

 カドヒトは、ニっと微笑んで、


「ああ、その通りだ。俺も、あんたと同じで才能はなかった。だから『一歩前に進むだけ』でも、いつだって、すげぇ時間がかかった……」


 『成長早い』を持っていれば、レベルは上がりやすい。

 しかし、レベルやステータスは、所詮、補正でしかない。

 いくら補正の数値が高くても、

 『根幹となる器』が脆ければ、

 ただの空虚なハリボテとなる。


「全然前に進めない苦痛を背負って……けど、俺は諦めなかった。どんな時でも、折れずに、必死になって積み重ねてきた……」


 自分の手をみつめる。

 グっとにぎりしめて、


「俺は、俺のことを『出来の悪い人間だ』と自覚しているが……しかし『折れずに積み重ねてきた』という、その一点に関してだけは……いつだって俺の誇りだった」


 カドヒトは目を閉じて、天を仰ぐ。

 少しだけ深い呼吸をして、

 呼吸器と世界をリンクさせる。

 世界とひとつになって、

 運命と向き合って……


 ――そんなカドヒトの姿を見て、

 バンプティは、グっと奥歯をかみしめ、




「……私が生まれた時には、すでに、主は御隠れになっていた」




 カドヒトと『本気の対話』をはじめようと、

 真剣に言葉を選択しながら、


「しかし、当時は、今と違い『主を知る者』が『それなり』にいた」


 『当時から既に超高貴な存在だったセンエース』に拝謁できた者は少ない。

 とはいえ、今と比べれば、絶対数は遥かに多かった。


「主を知る者は、みな、主を称えていた。主の光に触れた者は、みな、一様に、深く深く主に感謝していた。あの感情は、勘違いや洗脳や妄想の類ではない。そんなもので、あれほどの想いを抱かせることなど出来るものか。そのぐらいはわかる。私は賢くないが、バカではない。――だから、私も主を愛した。世界を照らしてくれた命の王に、心の底から感謝した」


 本気の対話を求めた理由は単純。

 『そうしなければならない』と魂が叫んでいるから。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る