信じられない深さ。

 信じられない深さ。


「バンプティ。俺はあんたを認めたね。さすがは、九華十傑の第十席序列二位。天下の『霊台』とは器が違う。……俺は、あんたの『歩み』を尊敬する」


「キ〇ガイの賞賛などいらん。貴様は、黙って、私に殴られておればいい」


「残念ながら、お前の武が通っていた時代は終了だ。ここからは俺の時間。特別に、見せてやるよ、俺が辿り着いた世界を。お前が積み重ねてきた狂気すらも遥かに超越した、鼻が曲がるほど泥臭い努力の結晶を」


 そう言うと、

 カドヒトは、光を線にした。

 内側から放たれた瞬(またた)きが、

 エッジのきいた菱形(ひしがた)を描きながら、

 カドヒトという概念そのものを、瀟洒かつ豪華に輝かせる。


 洗練された、命の光。

 ゆったりと、深く、雑味なく、

 ただ柔らかに、ふりそそぐ。


「ぬぉ……っ」


 その厚みに、バンプティの魂魄が震えた。

 思わず声をもらすほどに、カドヒトの圧力は大きかった。


 バンプティの目の前で、カドヒトは穏やかに流れていく。

 踏み込み足に心を込めて、

 空気にすら存在を気づかせないほど繊細に、

 それでいて、誰もが目を見張るほど大胆に、


 カドヒトの『武』は、

 あざやかに、バンプティの全てをさらっていく。


(からめ……とられるっ……)


 『空間を制圧されている』という認識は、

 しかし、どこか不快ではなくて、


 湿度を失った渇きが、

 ただピリピリと、

 全身の至る箇所へと広がっていく。


「誇れよ、バンプティ。お前は、今、俺の『流(りゅう)』についてきている。もちろん、周回遅れだが、しかし、今、お前は俺の背中を見ている」


 おごそかなで、どこか神秘的な流。

 まるで静かな海。

 穏やかで、優しくて、けれど、とても大きい。


(……し、信じられん深さ……)


 今のバンプティに、カドヒトの強さを正確にはかることはできない。

 カドヒトの武は、バンプティに理解できる領域にない。


 現在のバンプティにとって、カドヒトの武は、

 『そこの見えない穴』みたいなもの。


(存在値は私の方が上だというのに……)


 カドヒトの存在値は170。

 存在値だけで言えば、450に達しているバンプティの方がはるかに上。


 300の開きはかなり大きい。

 だが、戦闘力には、それ以上の『開き』が見えた。


(……私の方が格上のはずなのに……なぜ、こうも、すべてがズレる……っ)


 今のバンプティでは、まだ、

 『ズレる』としか判断できなかった。


 そこから先を求めるには、まだまだ練度が足りない。

 今のバンプティは、その事実に気づくこともできないレベル。


(霊台は報告書に『あと一歩のところで逃げられた』などと書いていたが……ふん、ばかものめ……逃げられたのではなく、相手にしてもらえなかっただけじゃ……こいつがその気になれば、霊台程度は簡単に倒せる……この男の深さは質が違う……っ)


 カドヒトの強さをハッキリと理解したバンプティは、

 『本気』で対応しようと覚悟を決めた。


 『格下を相手にするモード』ではなく、

 『全力で相手を叩き潰すモード』への移行。




「まわれ、『バンプティルーレット』っっ!」




 宣言すると、バンプティの目の前に、

 十等分に区切られたホイールが出現し、

 グルグルと高速でまわりはじめた。


 本気で戦う時にしか使用しない異型グリムアーツ『バンプティルーレット』。

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