超常のイグ。

 超常のイグ。


「なんだ、その目は。この私を前にしていながら、貴様の、その殺気はどうしたことだ?」


 イグは、ゲンに対し、本気の『不思議そうな表情』でそう言った。

 決して不快に思っているわけではなく、

 純粋な疑問に包まれている顔。


 イグは、面白がるような態度で、


「貴様はヤマトとロコの下男だろう? ということは、当然、この二人の実力を知っているはず」


 穏やかな態度。

 悪意でも敵意でも害意でもなく、

 純粋な質問者の態度で、


「私は、貴様の主人2人を瞬く間に倒してみせた。自分で言うのもなんだが、私は、遥かなる高みに在る超常の存在。人の身では決して並ぶことの出来ない神の領域にある者。そんな私を前にして、なぜ、それほどの純然たる殺気をたもてる?」


 イグの問いに対し、

 ゲンは迷うことなく、


「たぶん、バカだから」


 そう言い切ると、

 ゲンは全身にオーラを充満させる。


 ゲンの返答を受けたイグは、フラットな表情で、


「この私が、『愚かさ』と『勇気』をはき違えるほど無能に見えるか?」


 たんたんと、


「貴様の殺気からは強固な覚悟がうかがえる。『死んでも私に抗ってみせる』という鋼の意思。並大抵の情動ではない。おそらく、そこらの人間とは『根本にあるエンジン』の質が違うのだろう」


 ゲンというガキに対して『ハッキリとした興味』がわいたらしく、

 イグは、抹殺対象であるはずのロコに『シカトの背中』をつきつけて、

 ゲンただ一人と真っ向から対峙する。


「貴様の核が見てみたくなった。契約外だが、特別に相手をしてやろう」


 そう言って、まっとうな武を構えた。


 スキのカケラも見当たらない、

 長久の研鑽を感じさせる、

 完成された武の立体感。


 ソレを肌で感じたゲンは、


「……間違いなく、これまでに会ってきた誰よりも……ぶっちぎりで強いな……」


 ボソっとそう言いながら、

 右手に魔力をギュンギュンとブチこんでいく。


 まだ武を交わし合ったわけでもないのに、

 構えを見ただけで、

 ゲンは、イグの底深さを理解した。


 気を抜けば一瞬で飲み込まれてしまいそうな高次の圧力。

 人の領域にとどまらない、奇怪さの真髄。


「次元の違う強さ……アギトやテラからも相当の圧力を感じたが……そんなもんじゃない。生命としての格が違う……感じる圧は、数十倍単位……」


 ぼそぼそとそうつぶやくゲンに、


「ふふ……存在値の数字だけで言えば、倍が精々だがね」


 イグは、サラっとそう答えてから、


「もっとも、仮に『存在値1000クラス』と『存在値500クラス×10人』が闘った場合、後者の中に『よほどの極まった可能性を有する英傑』でもいない限り、ほぼ確実に前者が勝つが」


「へぇ、そうなのか……勉強になるね」


 などと言いながら、

 ゲンは、ゆっくりと、

 イグの目の前まで歩き、


 スゥと深呼吸をしてから、


「ここは間違ってほしくないところだから、最初にちゃんと言っておく。俺は、あんたに勝てるなんて、1ミリたりとも思っちゃいない。何か『とっておきの隠し玉がある』とか『援軍が控えていて時間稼ぎをするつもりだ』とか……そういうのでもない」



 ※ 一度、メメント・モリを使い、ナイアと同期し、

   記憶調整がほどこされたことで、

   ゲンの記憶から『メメント・モリ』に関する記憶は消えている。

   


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