本気のシグナル。

 本気のシグナル。


「私は、神様に遭ったんだよ。すごかったよぉ。ランク2000とか、3000とかの魔法をバンバン使ってきてねぇ。存在値にいたっては『170兆』もあったんだ。すごいよねぇ、神様って。で、私は、そんな神様に仕事を依頼されちゃってねぇ。だから、さすがに、これまでのように、気高く自由なままってわけにはいられないんだよねぇ」


「……」


 ザコーの眉間のシワがどんどん濃くなっていく。


(これは……ギャグを言っている顔じゃねぇ……いつものような『意味のない妄言』を垂れているんじゃねぇ……)


 ヤマトは間違いなく『イカれている』が、

 しかし、『ザコーが真摯な対応をしたとき』に、

 『ナメた嘘で返す』ほど空気が読めないわけではない。


 むしろ、その逆で『どうでもいいとき』は『誰よりも壊れている』が、

 『大事な場面』では『誰よりもマジメだったりする』のがヤマトという人間。


 それを知っているからこそ、

 余計に、ザコーは混乱する。


(おい、マジか、こいつ……まさか、薬でもやってんのか?)


 ヤマトが壊れているのは知っているが、

 『そっち系』の壊れ方をする人間ではないと思っていた。


 ――『思っていた』というか、事実そうで、

 ヤマトは、薬物に溺れるような『吐くほどダサい壊れ方』はしない。

 その『尋常ならざるみっともなさ』は、

 彼女の内で燃える『鋼のプライド』が絶対に許さない。


 だが、現状、


(いや、ヤマトのことだから、さすがに、薬はやっていないと思うが……しかし、ならば、この歪んだ壊れ方はどういうことだ……)


 ヤマトは間違いなく完全にイカれているし、

 シュールレアリズム&アバンギャルドが過ぎる『ワケわからんところ』が多いものの、

 いつだって、クールで、知的で、シニカルで、

 そして、惚れ惚れするほどアーティスティックなリアリストだった。


「……ヤマト……」


 ザコーは、本気の心配そうな顔で、


「何があった? 何をされた? それは、SOSのサインか? それとも、何か別のシグナルか?」


 慎重に言葉を選びながら、


「お前を完全に理解してやれないことを、心の底から歯がゆく思う。だが、他者の完全理解なんざ、どこまで言っても不可能な領域。だから……悪いが、もう少し噛み砕いて『お前のシグナル』を発してくれ。……俺はお前にどうすればいい?」


 とことん真摯な態度でそう言うザコーに、

 ヤマトは、


「ごめんね、ザコーくん。私が見たモノは、きっと、どれだけの言葉を使っても伝えることは出来ない。私は、自分のことを『そこそこ賢い』と思っているのだけれど、でも、『そこそこ賢い』という程度で表現できるほど、あの超常の次元は低くないんだぁ」


(……わからねぇ。こいつのことが、ここまで理解できないのは初めてだ……)


 これまでだって、ヤマトを完全に理解できたことなど一度もない。

 しかし、同時に、ここまでの『完全なる不理解』に至ったことだって、

 これまでは、一度もなかった。


「……けど、となれば……」


 そこで、ザコーは、覚悟を決めた。

 すぐに自分を整えることが出来る。

 それが、ザコーの強みの一つ。

 『狂気集団の頭を張っている』という経歴は伊達じゃない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る