舞い散る閃光の前で、名乗りをあげること。

 舞い散る閃光の前で、名乗りをあげること。


「今の俺の『数値』は、真なる全力の数%程度だが……お前の視点では、そこそこ大きいだろ?」


 そのような言葉を投げかけた。

 『不可侵の理解』が頭の中で沈殿していくにつれて、

 ヤマトは、目の前に立つ男に対して、

 『宇宙』を感じた。


 生命というシステムを超越した、果てしなく膨大な魂魄の器。


「……は、ははは……」


 こみあげてきた笑みに身を任せるヤマト。


 どうすればいいのかわからない困惑の果てに、


 ヤマトは、


「……あなたには、目標とか……あるのかなぁ?」


 ふいに、そんな質問を投げかけた。


「唐突だな。なぜ、そんなことが聞きたい?」


「それだけ大きければ、出来ないことは何もないように思えるからさぁ。頭の中で想像するだけでも、すべてが実現できるんじゃないかって……そう思ったんだぁ」


 そこで、言葉を区切り、

 ナイアを俯瞰で見つめながら、


「出来ないことが何もないということは……なによりも虚しいということ……そんな風に思っちゃった。だから聞いてみたいと思ったんだよねぇ」


 ナイア・ゲン・フォースというイカれた生命を知ったことで、

 ヤマトの脳はフルで活性化し、

 高次の疑問を抱くにいたった。


 この段階において、

 『ひれ伏す』とか『その尊さをあがめ奉(たてまつ)る』とかではなく、

 『まっすぐな疑問符を抱く』という特異性を見せつけるヤマト。


 彼女はどこまでも壊れている。

 その証明のような一幕。


「俺の目標は、いつか『名乗りをあげる』こと」


 ナイアは、遠くを見つめながら、


「もっと言えば『その先を見る事』だが……まあ、しかし、まずは、名乗りをあげることが目標だ。その段階に至らないと、一歩も前には進めない。舞い散る閃光の前で名乗りをあげる……そのために、今は色々と積んでいる」


 その宣言を、

 ヤマトは、


「……へぇ」


 受け止めて、咀嚼する。

 理解は出来ない。

 ぶっちゃけ、何を言っているのかわからない。


 『舞い散る閃光の前で名乗りを上げること』――それが目標になるという意味は、もちろんだが、さっぱり不明。

 到底理解できる気がしなくて、普通にモヤモヤしたが、

 けれど、同時に、『それも当然だろう』と思った。


(コレを理解できるはずがない……コレを理解できる者など存在しえない……)


 ナイアが魅せたあまりの『大きさ』が、

 ヤマトに、その結論を抱かせた。


 だから、


「その目標……手伝ってみたいんだけど、許可してもらえるかなぁ?」


 ヤマトは、そう提案を持ちかけた。


「私は、あなたの……パートナーになりたい」


 彼女は、自分のプライドを成立させるためだけに生きている。

 完全に壊れてしまっている彼女に、目標や生き甲斐などは何もない。


 彼女は、これまで、ずっと、

 ただただ『自身のプライドと折り合いをつけるだけの人生』を歩んできた。


 けれど、


「イヤだといっても、ムリヤリ手伝わせる。なぜならば、ゲン・フォースの人生を楽しくするためには、お前の存在が不可欠だから」


 変わる。

 ヤマトの人生は、

 今日をもって、まったく別のものに生まれ変わる。


「よくわからないのだけれど……『ゲン・フォースの人生を楽しくする』っていうのは、あなたの目標を達成するために、どうしても必要なのかなぁ?」


「どうしても必要だ」


「そうなんだぁ……」


 つぶやいて、何度か頷いてから、


「さっぱり理屈は不明だけれど……オーケー。これから、私は、あなたの目標をサポートするため、ゲン・フォースの人生を楽しくさせてみせるよぉ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る