理由。

 理由。


「正直な話をしようかぁ……私は『最初の美学』を曲げたくないんだよぉ。全宮ロコ以外は殺したくないんだぁ……けど、このままだと、君を殺さないといけなくなるよねぇ。私の気まぐれに、私の美学が犯される……イヤなんだよぇ、それは……」


 自分で勝手にやっておきながら、

 心底からの文句をたれてくる、

 完全に頭がおかしいヤマトに、

 ゲンは、


「……ゲン……」


 ぼろぼろで、

 血に濡れて、

 それでも、


「――ワンダフォ――」


 ヤマトに、拳をつきつけた。

 アリア・ギアスを込めた正拳突き。


 二歳のころからずっと、必死になって磨き上げてきた拳。

 その拳を受け止めると、

 ヤマトは、


「この状況で、その拳を出せたこと……それだけは認めてあげるよぉ」


 本音を口にしてから、


「なぜ、そこまでできるのかなぁ? 全宮ロコに……そこまでの魅力はないと思うんだけどねぇ。確かに、その子は、可愛いし、思想もなかなかエッジがきいていて面白い……けど、そんなものじゃ、そこまでする理由にはならないはずだよねぇ……」


 言いながら、ヤマトは天を仰いで思案して、


「もしかして、君は、全宮ロコのことが好きなのかなぁ?」


 問われて、ゲンは、


「……好きか嫌いかで言えば……たぶん、嫌いだろうな……この女、ワケわかんないし……」


「ふむ……では、なぜ、まだ彼女の盾になろうとするのかなぁ?」


「……何度も、何度も……同じことを言わせるな。その理由は、俺の方が教えてほしいくらいで――」


「理由がないのであれば、私は、君とのおしゃべりを中断して、即座に全宮ロコを殺すからねぇ」


「……」


「はは、大変だねぇ。こうなったら、本当に理由が分からなかったとしても、考えざるをえない。さあ、答えてみようかぁ。なぜ、君は、まだ私の前に立ちふさがっているのかなぁ?」


「……」


 ゲンは、痛みの中で、

 必死になって考えてみた。


(……ほんとにわかんねぇんだよなぁ……)


 心の中でつぶやきつつも、

 全力で頭をまわし、


(俺は……どうして……)


 数秒を費やして、

 けど、答えは出なくて、


 だから、


「タイムアップだねぇ。全宮ロコを殺すよぉ」


 そう言って、ヤマトは、ゲンの横を通り抜けて、

 気絶しているロコに近づく。


 その歩みを、


「待て」


 ゲンが、ヤマトの腕をつかむ形で止める。


「待ったらどうなるのかなぁ?」


 その問いに、ゲンは答えられない。

 また数秒の沈黙。


 いい加減、焦れたヤマトが、


「魔矢ランク5」


 ロコに向かって、魔法の矢を放った。


 詠唱中から動き出していたゲンが、

 どうにか、矢がロコに当たる直前に、自身の体で受け止める。



「ぐぁああ!!」



 腕にぶっささり、血があふれた。

 オーラで止血するが、止めきれず、

 ドクドクとあふれる。


「うぅう……ぁあ……」


 その様子を見て、

 ヤマトが、


「君の姿勢からは『狂気的な情動』を感じるのだけど……君はその情動を言葉にする術を持ち合わせていない……非常に面白いともいえるのだけれど、理解できなくてモヤモヤもする」


 そう言いながら、ヤマトは、ゲンに近づいて、


「まあ、君が異質だということはよくわかったよぉ。私と同じ側の『壊れた人間』だねぇ」


 そう言いながら、


「けど、もう、堂々巡りになりそうだし……そろそろ終わらせることにするよぉ」


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る