人を好きになったことある?

 人を好きになったことある?


「もう、堂々巡りになりそうだし……そろそろ終わらせることにするよぉ」


 そう言いながら、両手に魔力をためていくヤマト。


「これから私は、異次元砲という魔法を使う。すさまじく強力な魔法で、君のオーラでは、絶対に耐えられない」


「……」


「君も、全宮ロコも、確実に死ぬ。逃げるなら、これが最後のチャンス。これが、本当に、最後の最後の最後のチャンス。それをちゃんと踏まえた上で、行動するように」


「……」


 ヤマトの忠告を受けて、それでも、ゲンの目に変化はなかった。

 狂人の目。

 ラリっている瞳。


「覚悟が決まっている目……なぜ、そんな目ができるのかなぁ……わからない……わからないから、気持ち悪い。この気持ち悪さを払拭するためにも、できれば理由を知っておきたかった……けど……まあいいやぁ」


 そう言うと、

 ヤマトは、魔力とオーラで膨れ上がった両手をゲンたちに向けて、


「じゃあねぇ」


 そう言って、魔法を放とうとしたその時、

 ゲンが、


「あんたさ」


 口を開いた。

 ギリギリのところで撃つのを止めるヤマトに、

 ゲンは、


「人を好きになったこと……ある?」


「……いや、ないねぇ。私が人間を好きになることは……未来永劫、ありえないだろうねぇ」


「そうか。俺と……同じだな。俺も……そう思っていた」


 ゆっくりと言葉を選んでいるゲン。

 時間を稼いでいるといった感じではなかった。


 だから、ヤマトは黙って聞いていた。

 いつでも撃てる姿勢のまま、


「続けてぇ」


 そううながすと、

 ゲンは、ボソボソと、小さな声で、


「一生、俺は俺のままだと思っていた……俺は壊れているから。誰のことも愛せずに終わると信じていた」


「信じていた……とは、また不思議な言葉をつかうねぇ」


「自分はこういう人間だって……どこかで『自覚』していて、そういう人間のまま、最後まで俺自身を貫き通してやるっていう『意地』みたいなのがあって……だから……俺は、俺のまま、俺らしく……死んでいくと思っていた……俺のまま死んでいきたいと思っていた……」


「それに似た感情は私も抱いているよぉ。いつまでも自分のままでありたいという願望」


「それで、だから、えっと……」


 そこで、言葉が詰まり、

 もどかしげに、頭をかきむしるゲン。



「悪いな……時間稼ぎをしているわけじゃないんだ……ただ、言葉にするのが難しくて」



「わからなくもないよぉ」


 そう言ってくれるヤマトに対し、

 少しだけ感謝しながら、

 数秒をかけて、

 ゲンは思考を重ね、

 その結果、


「――あんたは、絶対に、ロコを殺す?」


「ああ、絶対に殺すよぉ」


「俺があんたの剣になるっていってもダメ? 俺は……将来、すごく強くなると思うよ。世界で一番強くなる、権力も地位も全部手に入れる……金も……今の時点で、すでに、大量にある。まだもらっていないけど、ここを切り抜けられれば、きっと、ちゃんと手に入る。それを全部あげる……ほかにも、俺にできることは全部やる……だから……」


「だからぁ?」


「ロコを……殺さないでください」


 真摯に頭をさげるゲンに、

 ヤマトは言う。


「なぜ、そんなにまでして、全宮ロコを守ろうとしているのかなぁ?」


 その問いに、

 ゲンは、この期に及んで、

 少し迷いながら、

 しかし、

 前を向いて、



「――たぶん、その女が好きだから――」


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