理由。

 理由。


「――君の中での『決着』をつけさせてあげるのも理由の一つ」


 感情に対する決着。

 それは、意外と消化できないもの。


「呪縛で動けなかったから――それが『言い訳』で残ると、『悔い』という面倒な残滓に変換される可能性がある。『抗える力があれば、あの日、全宮ロコを守ることもできたのに』……そういう重荷が君の中で残る可能性がある。それを消してあげようと思ってねぇ。わー、私、やぁさしぃ」


「……」


「これは、実際、私の中では、かなりの親切のつもりだから、変に歪んだ受け取り方はしないでねぇ」


 しつこいほど、前を置いて、


「……ここで『私にビビって逃げ出す』という前提が整えば、君の中で、今日という日が重たいトラウマになることはない。軽いストレスにはなるだろうけど、引きずるほどの重荷にはならないよねぇ」


(逃げ出したクズに、ロコの死をトラウマ扱いする資格はないってことか……)


「さほど守る価値のない女を守れなかった。子供だったし、実力不足だったし、相手が強すぎたし、まあ、いろいろ理由はあるけど、とにかく仕方なかった。――それですむ。それですませてあげようと思っている。わー、ほんと、私、やさしぃ」


「親切だな……あんたは、きっと悪い人ではないんだろう」


「いやぁ、私は悪い人だよぉ。ただ、自分の中のスジは通したいだけさ。まあ、一応、極悪人ではないと思っているけどねぇ。やると決めたら、どんなことでも躊躇なくやるけど、自分の中のポリシー(プライド)は大事にしたい……みたいな感じかなぁ」


 そう言うと、ヤマトは、

 ゲンに視線を向けて、


「で? どうするぅ? 考える時間を10秒あげるから、決断しなよぉ」


「そんなにくれるのか?」


「親切は貫いてこそだと思っているんだよぇ。それもまたプライドだよ」


 そう言ってから、

 ヤマトはカウントダウンをはじめた。


「じゅーう……きゅーう……」


 その間、ゲンは、


「……」


 ロコの横顔を見つめていた。


「最初に会った時から思っていたけど、この女、すげぇ美形だな……」


 ボソっとつぶやいてから、


「並んで歩いたら……俺の方は、完全に見劣りするな……というか、下男にしか見えないだろう」


 意味のない自虐をはさむ。


 その間も、カウントダウンは止まらない。


「ろぉーく……」


 のんびり、ゆっくりとしたカウントダウン。


 ヤマトのカウントダウンを聞き流しながら、

 ゲンは、

 ロコの頬に触れて、


「見た目は美形だけど、中身は、ワケわかんねぇ気持ち悪さであふれている奇抜な女……家族や世界にケンカを売ろうとして、自業自得で殺されかけて……本当に、どうしようもないな……」


「さぁーん……」


「頭ブッチギレていて、当たり前のように偉そうで、絶対的に意味が分からない……」


 言いながら、ゲンは、

 ロコの頭を軽くなでて、


「正直、美形ってのを見るとイライラする。どうして、自分はそうじゃないんだって感情にさいなまれるから。いや、一番イライラするのは、そういうくだらないことを考える自分自身のしょっぱさか。気分が悪い。気持ち悪い」

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