重なり合って、自由になる。

 重なり合って、自由になる。


「いいですよねぇ、こういう時間……上質な喫茶店で過ごす時間に似ているような気がしますぅ。私は、こういう時間が大好きでねぇ」


 ラリった感じで笑ってから、

 天を仰ぎ、


「優れた命と優れた命が混じりあって、きしみ合って、その奥に光る何かがまたたく……」


 ぶつぶつと、


「そうして、重なり合って……自由になる……」


 つぶやいてから、

 ソウルさんたちに視線を向けて、


「なんてことになったらぁ、すごく美しい気がしません?」


「よくわからんな」


「でしょうねぇ。実際のところ、私も自分が何を言っているのかわかっていませんのでぇ、てへっ」


 舌をペロっと出す仕草。

 内容が錯綜しているセリフ。


 すべてが歪で、奇妙で……


「本当に気持ちの悪いガキだ……」


 ソウルさんは、一度『素直な言葉』を口にしてから、


「……ウチの子も、たいがい、イカれているが……お前を見ていると、まだまともな方だと安心できるよ」


 そう言ってから、息を吐く。

 吐き切るまで。

 深く、深く、息を吐く。

 そして、スゥと短く息を吸って、

 自分を整えて、



「勝てる気はしない……たった一回の攻防だけでも理解できる。お前は私たちよりも遥かに高いところにいる。その年で、それだけの力を持つ者は……五大家の人間でも、なかなかいない。お前は、まさしく稀代の天才だ」



 よどみのない言葉。

 嫉妬とか、落胆とか、恐怖とか、

 そういう雑味のある感情を排除した言葉。


 ソウルさんは、自分の中に深く潜って、

 ヤマトをシルエットとしてとらえて、


「だからこそ分かり得る……お前と武を交えれば、私が『たどり着いた場所』がどこなのか、明確にわかるだろう。お前とぶつかり合った果てに……私が積んできたモノの価値が……真価が……わかる……ような気がしないでもない」


 言葉とともに、

 ソウルさんは踏み込んだ。


 剣がきらめく。

 豪速。

 世界に残像を残す瞬歩。


 体すべてが一本の刃になる境地。


 その、魂こもった斬撃を、


「ご自身の真価……どうでしたぁ?」


 ヤマトは、鮮やかに受け流してみせた。

 斬撃に対して、

 その細い指先を『しなり』と艶やかに合わせて、

 コンと軽くノック。

 その結果、ソウルさんの剣はキィンと、よく通る音を奏でて折れた。


 その流れのまま、

 ヤマトは、体躯を回転させて、風を切りながら、

 ヒジカとオキの剣に優しくノックをして、

 優雅に、パキリとへし折ってみせる。


 直後、静寂が場を制圧した。

 自身の折れた剣を見つめる三人。


 そんな彼らに微笑みを向けるヤマト。


 きわめて静かな状況。


 ソウルさんは、


「……ふぅ」


 ため息をついてから、

 折れた剣を捨てて、


「正直、悲しいな……それなりに頑張って積んできたつもりだったが、まったくもって届いていない……強者を前にすれば、遊ばれるだけ……私は、まだ、どこにもたどり着いていない……」


「いえいえ、遊んでなどいませんよぉ。あなたたちは大変お強い。とっても素晴らしいぃ。そうそういない、輝く命の持ち主ですよぉ」


 そう言ってから、天を仰ぎ、


「まあ、確かに、私の視点だと『殺すに値するほど』ではありませぇん……が、しかし、だからといって社会的に価値がないわけではなぁい。私はただの偏屈な美食家。私の舌に合わないからといって、実質的に不味い料理というわけではなぁい。あなたたちは非常に上質ですよぉ」



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