全部を……あつめて……

 全部を……あつめて……


「なんなんだ、貴様は……『貴様ら』は……いったい……何がしたいんだ……」


 ゲンとロコ。

 両者に対して、アギトは心底から『不快感』を覚えた。

 まるで、自身の体内で二匹のムカデが這い回っているみたい。


 と、そこで、ゲンが、


「げほっ……がはっ……」


 重たく吐血した。

 濃い血があふれる。

 酷く真っ赤で、深くドロっとしている。


 ゲンは、少し息を吸って、

 口元をぬぐって、

 激痛と仲良くしながら


「俺は……ゲン・フォース。まだ……何者でもなくて、けど目的はあって……だから、必死になって……毎日を積み重ねている者」


 途切れ途切れに、

 しかし、ハッキリと通る声で、


「……『あっちのヤベェお嬢様』に関しては……よくわからん。何がしたいのか、何を思っているのか……正直、何一つわからない……」


 息も絶え絶え、

 全身ボロボロ、

 ――それでも、ゲンは続けて、


「本音を言わせてもらえれば『気持ち悪い』とすら思う……『ロコ様が何をしたいと思っている』のか、俺には、さっぱりわからない。……ぃや……まあ、少しは……おぼろげには……理解できなくもない――ところもなくはないって感じなんだけど……けど、結局のところは、やっぱりわからない」


 飾り気のない本音を前に置いてから、


「……わからないから……」


 顎を上げて、

 アギトの目を睨み、


「わかりたいんだろう……きっと。傲慢なほどに……俺は『あの子』をわかりたいと思っている……」


「……」


「この情動を……大事にしたいっていう、俺のワガママを……」


 ゆっくりと、拳を構える。




「……あつめて……」




 ゲンの全てが充実していく。

 心と技と体。

 すべてが、まだまだ未熟でお粗末。

 けれど、だからこそ表現できる『何か』はきっとある。

 ――なんて、そんなことを思いながら、

 ゲンは、




「――ゲン・ワンダフォ――」




 ありとあらゆる感情がゲンの中で一つになる。


 未完成の器に亀裂が入る。

 ピシっと音が入って、

 パリンと割れる。


 すると、その陰影に、

 新たな軸が生まれる。


 壊れて、再生して、砕けて、取り戻して、

 そんなことを繰り返しながら、

 命の器は磨かれていく。


 命は完成しない。

 けれど、だからこそ永久(とわ)に――



「がぁっっ!!」



 ゲンの拳が、アギトの腹部に直撃。


 避けられない速度ではなかったが、

 なぜだか『受け止めたくなった』ため、

 アギトは避けずに、その身で受け止めた。


(うぐぅ……な、なぜ、私は……こいつの拳を受け止めた……よけられたはず、いなせたはず、どうとでも出来たはず……それも、すべて、造作もなく! なのに! なぜ!)


 自分で自分が理解できない。

 アギトの中でも何かが壊れている。


(痛みは……さほどない。衝撃はあったが、その程度……だが)


 アギトは『きわめて不透明な自分』に迷いながら、


(こいつの拳からは『重たい覚悟』を感じる……不自然なほど、悠久(ゆうきゅう)を思わせる重たさ……この重たさは一体なんだ……このガキは、五歳程度の子供なのに……どうして、それほどの重さを……)


 疑問が止まらない。

 何もわからない。

 ずっと、ずっと、奇妙がすぎる。


(なにもわからない……だが……)


 だが、一つだけわかったことがある。


(折れない……こいつは……たとえ永遠を積んでも……)


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