混ぜるな! キケンが危ない!

 混ぜるな! キケンが危ない!


(折れない……こいつは……たとえ永遠を積んでも……)


 この瞬間、アギトは、

 『ダギーの気持ち』が十全に理解できた気がした。


 他者を理解できたのは、初めてだな。

 なんて、そんなことを思いながら、

 心の中で、


(このガキは、完全に壊れている。ロコにも匹敵する歪み方……)


 ロコは稀代のキ〇ガイ。

 そんなロコに匹敵するサイコパス。


 それが目の前にいるこのガキ。

 ゲン・フォース。


(きっと、このガキは……いや、きっとではなく、間違いなく……どれだけの時間を使おうと……このガキの『心』は、永遠に『ひどく歪んだまま』であり続ける……)


 高次の理解。


 数分の拷問、

 1回の反撃。

 ――『その二つ』だけで、アギトは、ゲンを理解した。


 もちろん『すべて』じゃない。

 アギトの『中』に浸透したのは、

 『ゲン・フォースというブッチ切った異端』が有する『異常性の一部』だけ。


 それでも、

 わかることは確かにあった。

 ゲンの異質を解したことによりハッキリと思ったこと、

 それは、


(危険だ……この異質は、届きうる……)


 未来に対する不安。

 まだ漠然としているが、

 しかし、シルエットは見えた。


(コレとロコは、混ぜると危険……)


 『ブレーキになりえる』のであれば、むしろ歓迎すべき逸材。

 しかし、ロコは止められない。

 たとえ、誰が何をしようと決して暴走をやめない。


 その前提があるがゆえに、

 アギトは、ゲン・フォースという逸材に対し、

 『無為な破滅の助長を促す歯車』という烙印を押さざるをえない。


(このまま、この壊れた二匹を放置していたら……未曾有の災厄に発展する可能性がある!)


 警戒心と恐怖心が混ざり合い、

 だから、アギトは、


(殺す! 殺すべき! 今のうちに、片方だけでも殺しておかないと! コレを生かしておくのは、危険が危ない!!)


 ほとんど反射的に、流れるように、

 アイテムボックスに手を突っ込んで、

 自身が有する最強の剣を抜いて、



「剣気ランク20!!」



 自身に使える最強のバフ魔法を用いて、

 そして、


「八連空斬ランク21!!」


 最強の攻撃魔法で、

 強引に、ムリヤリに、ゲンを終わらせようとした。

 外聞もへったくれもない乱暴極まりない一手。


 エゲつない火力の連続飛翔斬撃が、

 空間を跳躍しつつ、

 ゲンを裂こうと襲い掛かる。




(ぁ、死んだ……)




 走馬灯がBGMになった。

 ゲンは、自分の死を確信する。

 トラックにひかれた時と同じ。


 驚くほどスローな時間。

 10秒以上に感じたコンマ数秒。


 この極限状態を打破できる一手など、今のゲンは有していない。

 ゆえに不可避。

 完全に終了。


(――何か、回避の手段――)


 一応、極限級危機的状況下ゆえ、正常生理反射として、

 頭脳は、異常なほど豪速で回転している。

 一応、まだ、ゲンはあきらめていない。

 だが『あきらめないこと』と『対処できるか否か』は別問題。


(――緊急回避。横に飛べ。体をひねれ。――間に合わない)


 死がゲンをさらっていく直前、

 『体感的には永遠』の『コンマ数秒』の中で、


(魔力で相殺。差がありすぎる。剣で合わせる。今の技術では不可能。――不可能でもやれ。――ぃや、そういう問題じゃない。このあまりに『明瞭で不可避な死』は根性で埋められる領域じゃない)


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