ゲン・フォースの可能性。

 ゲン・フォースの可能性。


「非常に素晴らしい提案だわ。自殺するのはやめるから、ゲン、降参しなさい。そして、2兆円と地位を、ありがたくもらっておきなさい」


 などとナメたことをぬかすロコを尻目に、

 アギトはイラつき顔で、


「貴様が自殺をしないのなら、この話はなかったことになるに決まっているだろ。是が非でも貴様に有言実行させるために提案しているんだ、ボケ。この賭けにおいて、途中のルール変更は絶対に、絶対に、絶対に、認めない。ゲンが降参を口にすれば、貴様は死ぬ。それは絶対だ!!」


「あら、そうなのですか? じゃあ、ゲン、降参しちゃダメよ」


「もう、お前、ほんと、黙ってろぉ!!」


 ゴリゴリガチンコのブチ切れ顔でそう叫んでから、

 すぅ、はぁ、と、深呼吸をはさんで、


「……私が当主になったあかつきには『特別な特殊部隊』を作ってやる。名前は……なんでもいい。お前が好きに決めればいい。ゲン組でも、フォース組でも、好きに決めろ。とにもかくにも『貴様のためだけの組織』だ。ゲン組の権力は、部隊の中で最上。『一般人(五大家以外)ピラミッド』の頂点。――さすがに『全宮家と同等』の地位を与えることは、世界のルール的に不可能だが、ソレに限りなく近い地位を与えてやる」


 前提を並べていく。

 ズラっと、豪華なメリットを並べてから、


「貴様には『可能性』がある。貴様の可能性に賭けてやる。だから――」


 ようやく、アギトは、『要求』を口にする。




「――私を選べ(降参しろ)」




 『提示された条件』は、

 あまりにも、ゲンにとって魅力的すぎた。

 普通であれば、考えるまでもない超々々好条件。


 だから、当然、ゲンは、


(すげぇな……)


 心の中で、そうつぶやいた。

 ゴクっと唾をのむ。


 あえて考えようとしなくとも、

 頭の中で想像が巡る。


(2兆……2兆あれば、割引券との併用で、最高額の『なんとかリッチ』を買うことも可能……30兆円というふざけた額のアイテム……その強さは、きっと破格も破格……)


 膨らむ。

 妄想が加速する。


(地位も名誉も富も……全部……ただ、ここで、降参を口にするだけで……)


 非常に簡単な条件。

 間違いなく、人生最大のチャンス。


(あの『クソバカお嬢』を切れば……それだけで……)


 正直、ゲンは、ロコに呆れている。

 『あまりにもバカすぎる』とイラついている。


 ――『ぶっちゃけ気持ち悪い』とすら思い始めている。


(……『世界の全てを敵に回す気まんまんのシリアルサイコパスなバカ女』と『いずれ当主になることが確定している聡明で金持ちで決断力のある超人』……どっちにつくべきか……もちろん明白。ここで『前者』を選ぶのは完全にラリったジャンキーだけ)


 と、ゲンが思案していると、

 そこで、アギトが、追撃する。


「ゲン・フォース。この状況下における『私』と『お前』は同じ『被害者』だ。全宮ロコという災害に振り回されている、いわば同志」


 心理の乱用。

 心を重ね合わせる裏技。

 交渉術の奥義。


「ロコの下についていても、いいことなど何もない。アレは今後も、お前を、今日のような目に遭わせ続けるだろう」


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