真摯な対話。

 真摯な対話。


「全宮家にとって益になることは何一つせず、喜々として『家族に対するいやがらせ』を行い続けるお前に……それでも、私は、自分の領地と部隊を分け与えた」


 決して『いらないもの』を捨てたのではない。

 ソウル・フォースは非常に優秀なコマ。

 できれば、直属の配下のままにしておきたかった優秀な超人。


「お前に対して、私が……私たち家族が何かしらの迫害をしたという事もない」


 むしろ、ロコは、好待遇を受けていた方。

 非常に優秀な資質を持つ天才児の美少女として、

 まっとうに可愛がられていた。


「もちろん、人と人の関係ゆえ、知らず知らずのうちに傷つけてしまっていた……という可能性はなくもない。しかし、少なくとも私は、お前に対し、悪意をもって接したことは一度もない」


 『一度もない』というのは、もちろん、嘘である。


 たとえ、どれだけ『仲のいいご家庭』であっても、

 『家族』に対して『負に属する感情』を一切抱かないということは絶対にありえない。


 とはいえ、これまでのアギトは、事実、

 ロコに対して、『本物の害意』をもって接したことは一度もない。


「私は兄として、妹であるお前を、それなりに誠心誠意、かわいがってきたつもりだ……なのに……なぜだ……」


 アギトはアギトで、色々と壊れた人間なので、

 妹を溺愛していた――というわけではないが、

 妹に対して、それなりに愛情は持っていた。


 生まれたばかりの、小さな手を握ったあの日、

 『守ってやりたい』と心から思った。

 それは事実。


 ――ロコの『家族に対するいやがらせ』は常に一方通行。

 反抗期のハネっ返り――に収まるのであれば、

 アギトにも反抗期はあったので、

 まだ『理解できる部分』もなくはないのだが、

 ロコの行動からは、そういった『一時的な感情による蛮行』ではなく、

 なにかしらの『凶悪な信念』を感じるのだ。


 ――アギトの『真摯な問い』に対し

 ロコは、感情の見えない声音で、

 とうとうと、


「不満を言い出したらキリがないのですが……まあ、まずは『全宮が二番手』というのが気に入りませんわ、お兄様。『一番でなければ最下位と同じ』というのがあたしの信条ですゆえ」


 『その見解』に対してだけは、アギトにとっても、同意するところがなくもなかった。

 ゆえに、アギトは、少しだけフラットな口調で、


「本音を言えば……私も『完全院の子分でしかない』という現状に対して不満がまったくないというわけではない」


 そこで、言葉を切って、

 軽い深呼吸の後に、


「だが、完全院は強大だ。まともにやりあえば、我々はつぶされる。罪帝・宝極・久剣の三家と束になってかかっても、完全院には敵わない。完全院は大きすぎる」


 前提を口にしてから、


「そして、完全院は、支配者として十分に理性的だ。完全院リライトは、邪知暴虐の王ではなく、ド直球に優れた逸材。リライト以外も、みな、非常に理知的で高性能。立場上『崇め奉ること』はできないが、完全院の人間は、みな、尊敬に値する人物たちであると思う」


 上司がどうしようもないクズだったら、

 リスクと向き合い、謀反や革命を計画したりもしたかもしれない。


 アギトも、『全宮が完全院の子分でしかない』という現状に、多少憤りはしているが、しかし、完全院に対して『子分としての不満』は特にない。


 むしろ、完全院は非常に良質な統治をおこなっていると感心しているぐらい。


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