かけをしよう。

 かけをしよう。


 ロコの賢さは、誰もが理解している。

 ゆえに、みな『ロコの無茶』は『途中でブレーキがかかるだろう』と予測していた。

 簡単に、一言で言えば、ここにいる全員が、ロコの異常性をナメていた。


 もう少し踏み込んだ言い方をすれば、

 みんな、どこかで、ロコを信じていた。


 血のつながった家族だから、

 『流石にそこまでは狂っていないだろう』と信じていたかった。


 ――『全宮ロコの知性が特異な領域にあること』を理解しているゆえ、

 ロコの叔母である『全宮ルル』は、ロコの行動に対して、

 兄であるテラに、こう言ったことがある。


『あの子は理知的が過ぎるわ。おそらくは、世界が歪んでみえていることでしょう。若い時分には、私にも、そういう傾向が、多少はありました。己の青さに飲み込まれて、世界がひどく穢れて見えてしまった。私にソレが来たのは、十代の中盤だった。もう子供ではなかった。だから、自分の情動にケリをつける方法もなくはなかった。【自分の全てをささげられる場所があった】というのも大きかったかもしれない。だけれど、あの子は、何も持たない【あまりにも若い時点】で、己の青さにさいなまれてしまった。閉じ込められている発情期の猫のようなもの……とでもいえば、多少は理解できますしょうでしょうか、お兄様』


『ルル、だからなんだ? 何が言いたい?』


『あまり、異端・異常あつかいはしない方がよろしいかと。その対応は、あの子の青さを加速させうる』


『……』


 ロコの異常性に対して、

 全宮家も、多少は対応しようとした。


 誰にだって感情はある。

 支配者の地位についているからといって、

 情動を失ったわけではない。


 『どうしたらいいのかわからない』


 その悩みは、王であれ、神であれ、

 大小はあれど、変わらず、常に、胸の中でうずまいているもの。


 だから、みな、ロコの『異常』に対し、

 これまでは大目に見てきた。


 非常にあやういバランス。

 だが、ギリギリ保てていたバランス。


 それが、今、ハッキリと崩れた。


 ――ロコの明確が過ぎる態度を受けて、

 アギトは、目を閉じて、


「すぅ、はぁ……」


 深呼吸をしてから、

 目を開き、


「わかった。お前がその気なら……私はもう、お前に容赦しない」


 そう宣言した。


「あら、お兄様。どうなさったの? そんなに怖い顔をして。もしかして、賞味期限切れのお菓子でも食べまして? トイレなら、あっちにありますわよ」


 あくまでも茶化していくロコに対し、

 腹を決めたアギトは、

 ゲンに対して視線を向け、


「ロコ……あのガキは『お前がそこまで言う男』だ……ためさないわけにはいかないな」


 そう言うと、

 アギトは、指をパチンとならした。

 すると、ゲンの視界がグニャリとゆがむ。


「っ」


 数秒でととのう視界。

 周囲を見渡すと、誰もいなくなっており、

 真っ白な壁で包まれた空間が広がっていた。


 ゲンは己の状況を、


(……空間系の魔法か……)


 一瞬で理解する。


 毒組の中には、空間系のスキルを使える者もそれなりにいるので、

 これが初体験というわけではない。


(さて……何をされるのかな……)


 不安寄りのドキドキ感に包まれていると、

 外でのアギトとロコの会話が聞こえてきた。



「ロコ、賭けをしよう。ワンポーカーだ。お前のエースと私のエース、どちらのカードの方が強いか」



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