世界最強。

世界最強。


「狂気の表情。鋭い目つき。断固たる決意を感じる。……『それほどの想い』をぶつけられたこと……うれしくないと言えばうそになる。しかし、それは感情の話。今のあたしは、感情の置き場など求めていない」


 ロコは、たんたんと、

 ゲンに対して、ある種、真摯に、


「……『遊び相手』は必要としていない。足手まといやお荷物もいらない。あたしが望んでいるのは使える手ゴマ。というわけで……『今のあなた』は必要ない」


 ハッキリと、

 そう言い捨てられたゲン。

 しかし、ゲンはまったく変わらない瞳のまま、

 『んんっ』と、喉を整えて、

 より強い瞳で、ロコを見つめ、


「でしょうね」


 少しだけ冷静になった声。

 冷静にならざるをえなかったから、強制的に脳が冷えたのだ。


 エンジンがフル稼働する。

 ゲンの全てが強い熱で包まれる。


「今の俺が、あなたに求められるとは思っていません」


 理知的なその発言を受けて、

 ロコはより真摯な態度で、


「というと?」


 ロコからの問いに対し、

 ゲンは、呼吸を整え、良質な間をとってから、


「俺が聞きたいのは一つ」


 沸騰していた頭が、極端なほど冷静になる。

 情動の乱高下。

 ゲンの脳みそがギンギンと音を立てて回転している。


 想いを果たすため、

 衝動ではなく、

 狡猾な計算式で、言葉を構築していく。


「どの領域に立てば……俺を認めていただけますか?」


 ゲンの発言を受けて、

 ロコはキュっと目に力を込めた。


(獰猛な決意……そして『どれほど困難な道であれ、必ず切り開いてみせる』という覚悟の意志)


 ロコは、心の中で、


(その想い……本物か否か……今、この瞬間に判断できるものではない)


 ゲンを測ろうとして――やめた。


 ロコという美少女は『たぐいまれな資質を持つ特別な人間』だが、

 当然、『他人を完全に見通せる目』は持っていない。


 ゆえに、

 ゲンから、


「どの領域にまで至れば認めてもらえるのか……その具体的な基準をお聞かせいただきたい」


 そう尋ねてこられた際に、

 間髪入れず、

 ――本音を答えた。


「完全院リライトを殺せる者」


 その大胆が過ぎる発言を受けて、

 ゲン以外の三人が同時に顔を青くした。


 『自分たちの主人(ロコ)』がイカれていることは知っていたが、

 まさか、ここまで、本格的にラリっているとは思わなかった。


 あの発言は、決して冗談でもハッタリでもない。

 ロコの目を見ればわかった。

 ロコは本気で言っている。


 ――彼女は、本気で、完全院リライトの命を狙っている。



「あたしが望んでいる『剣』は、完全院リライトを殺せる一振り……それのみ」


「……」


 ゲンは、いまだ、まっすぐにロコの目を見つめている。

 その瞳には、わずかも揺らぎが生じていない。


(……全宮ロコがもとめているのは……この世界の頂点、エリアAの支配者である最強の個――『完全院リライト』を殺せる力……)


 ゲンは必死になって演算する。

 理由なんて求めない。

 それがロコの望みなら、ただ全力で叶えるのみ。


 よって、一心不乱。

 何をどうすれば、その無茶を通せるか。

 必死になって考える。


(ようするに、世界最強になるってこと……)


 かみ砕いて、整理して、

 結果、


(――やってやる――)



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る