大人と子供の差。

大人と子供の差。


「まだ少し時間があるなぁ! よーし、興が乗ったことだし、ここから、ほんの少しだけ、お遊戯に付き合ってあげよう! さ、君の全力を見せてみてぇ! さあ、カモンッ!」


(受け止めてくれるのか……ありがたいね……マジで!!)


 『変態の気まぐれ』のおかげで、ヒリついた鉄火場で自分を試せるチャンスを得た。

 これほどの死が蔓延した『命の現場』で、

 可能性を試せる機会などそうそう得られない。



「武装闘気!!」



 余すことない全力。

 オーラの鎧に包まれる。

 出来る全てを自分にぶちこんでいくゲン。


 その様子を見て、


「最高にクールなガキだな! その年で、武装闘気なんていうレアで難易度の高い技まで使えるのか! 可能性の塊だねぇ! いいねぇ! ――さあ、どんとこい!」


 ルスは嬉しそうにそう言った。


 ゲンは遠慮せずに、

 魔力とオーラを練りに練って、

 今の自分に可能な限界を求めてから、



「ゲン・ワンダフォォオオオオオオ!!!」



 凶悪にダサい必殺技を放つ。

 名称はダサいが、しかし、その威力は、決してダサくない。


 三年間、必死になって積み重ねてきた努力の結晶。

 今のゲンに可能な上限いっぱい。


 それを、無防備な腹部で受け止めたルスは、


「うぐっ!」


 軽く、くの字になった。

 血を吐くまでには至らなかったが、

 少しは痛みを感じたようで、

 ほんの少しだけ顔が青くなっている。


「ははは……いやぁ……なかなか良かったよ、天才少年! もし君が30歳だったら、今の一発で、殺されていたと思うね! はははっ!」


 軽快に笑っているルス。

 ゲンは思う。


(遠いな……まるで勝てる気がしない……絶対的な差……)


 ゲンが抱いた感想を『言動』にするかのように、

 ルスが、ニィと黒く微笑み、


「けど、まあ、これが大人と子供の差ってことで!」


 そう言って、アイテムボックスからナイフを抜き取ると、

 その勢いのまま、ゲンの心臓につきたてようとした!

 ゲンでは反応しきれない速度。

 現在、分身は使用不能。

 対策はゼロ。


 ゲンの脳裏に『死』の概念がザラリと触れる。


 ――その一瞬、


「魔斬ランク10っっ!!」


 死角から、

 ソウルさんが、ルスに切りかかった。

 豪速の踏み込み。

 一瞬のうちに間をつめ、

 鋭く刃をきらめかせた。


 反応を許さない速度。

 だが、ルスは、


「はやいねぇ!」


 予測していたとしか思えない速度で、

 軽やかに回避しつつ、

 ソウルさんの腕めがけて、ナイフをきらめかせた。

 シュインと、鮮やかな音。

 直後、ソウルさんの左腕が宙を舞う。


 その光景を見て、


「ソウルさんっ?!」


 ゲンが、青ざめた顔でそう叫んだ。


「五大家の中枢を目指すほどの者が……父親の腕が飛んだくらいで、乙女みたいな声を出すんじゃない……」


 ソウルさんは、修羅の顔で笑いつつ、

 ルスからゲンを守るようなポジションをとる。


 そんなソウルさんに、

 遠くで見ているヒジカが、


「自分の身は自分で守らせる……とかなんとか言っていなかったか?」


 続けてオキが、


「ピンチになっても助けない……とも言っていませんでしたか?」


 二人の言葉を受けて、

 ソウルさんは、


「確かに言ったな」


 認めて、頷いて、

 しかし、


「で? それがどうした?」


 シレっとそう言った。



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