自分の身は自分で守らせる。

自分の身は自分で守らせる。


「報告用の数字は『5』もあれば十分でしょう。出来るだけ『無害そうなカス』だけ残して、あとのカスには死んでもらいましょう」


「5もいらねぇ。3あれば十分だ。あとは皆殺しでいこう」


 物騒な会話もほどほどに、

 シロアリのエリアB支部が設置されているビルにたどり着く一向。


 余計な被害を避けるため、

 今回出動しているのはソウルさん・ヒジカ・オキの三名のみ。

 そこにゲンが見学でついてきている形。


「さあ、ゲン。仕事の時間だ……父の背中を、しっかり見ていろよ」


 そう言いながら、ゲンと一緒に車を降りるソウルさんに、

 ヒジカが、


「おいおい、中にまで、そのガキを連れていくつもりか? さすがに、ここで待機させておけよ」


「私は『世の汚い部分を隠すこと』が親の役目だとは思っていない。それに、私は、この子の夢を応援すると決めた。だから、この子には現実を見せつける」


「……過保護なのか、スパルタなのか……イマイチ、わからなくなってきたな」


 と、そこで、オキが、


「ゲンくんは局長が守る。カス共の排除は僕と副長が担う……という事でいいのですか?」


 そう尋ねてきた。


「いや、自分の身は自分で守らせる」


 ピシャリとそう言い切ってから、

 ソウルさんは、ゲンの目を見て、


「私のそばにいれば、危険になることはそうそうないだろう。だが、現状、あのビル内は戦場。当然、気を抜けば、思わぬピンチに見舞われることがあるだろう。もし、気を抜いてピンチになったとしても、私はお前を守らない。気を抜けば死ぬ。それを念頭に置いて……ついてきなさい」


「……わかりました」



 ★



 ビルの中は、死体と血液でまみれていた。

 無意味な殺し合いの跡。


(血の匂い……戦場の香り……)


 ソウルさんの背中についていきつつ、

 そこら中に転がっている死体に目を向けるゲン。


(……死の空気……)


 全身がヒリついた。

 『本物の死』に触れて、

 心臓がドクンと脈うつ。


 と、そこで、ソウルさんが、


「まずいな……全滅しているかもしれない」


 ボソっとそう言った。


「支部長くらいは確保したかったんだが……この様子だと、もう遅いかな……」


「全滅させられていた場合……やはり、上から怒られるんですか?」


「ま、多少は、な。しかし、キチンと報告書を整えれば、それほど理不尽な叱責はくらわないさ。そこは、私の処世術次第ってところ。まあ、うまくやるさ。これまで、ずっとそうしてきた」


「ちなみに、ソウルさん……こういう『悪を守る仕事』って、結構多い感じですか?」


「いや、まあ、たまに……くらいだな。基本的には、全宮ロコ様の護衛を担当したり、テロリストから市民を守ったりするのが毒組の仕事だ。大きな災害が起きた時に出動することもある。基本的には何でも屋。もっと言えば便利屋だな」


「……なるほど」


 などと会話していると、

 柱の影から、


「――死ね、ごらぁああ!!」


 『頭がおかしい』と一目でわかるパンクなにーちゃんが飛び出してきて、

 ソウルさんに殴り掛かった。

 あまりにも唐突な出来事――しかし、


「お前に殺されてやるほど、私の命は安くない」


 ソウルさんは、

 のんびりとした口調でそう言いつつ、

 サラっと、腰の剣を抜いて、



「ぎやぁぁあああああ!!」



 パンクなにーちゃんを真っ二つに切り裂いた。

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