これが強者か。なるほど。

 これが強者か。なるほど。


「さあ、遠慮をするな。ほらほら、思い切って、攻撃してみるといい。――もし、私の顔面に一撃でも食らわせられたら遊園地に連れていってやろう」


(……行きたくないから、顔面にだけは入れないようにしよう……つぅか……たまたまだろうけど……この人、普通に、王子のセリフを吐いたな……まさか、俺と同じで転生しているとかいうオチじゃないないだろうな……)


 一瞬、その辺を聞いてみようかとも思ったが、


(……仮に、そうだったとして、だから何だって話なんだよなぁ……ぶっちゃけ、どうだっていい)


 もし、ゲンが、非常に長い期間、同郷の人間と会っていなければ、

 自分と同じ境遇の人間に対して、『特別』に感じる可能性もなくはないが、

 今のゲンは転生したばかりで、浮かれている段階なので、

 仮に、現段階で同郷の人間を見つけたとしても、

 『まあ、すでに俺というサンプル1があるからな。俺以外が転生することも、そりゃあるだろうぜ』

 ぐらいにしか思わない。


「ふぅ……」


 ゲンは、一度深呼吸をしてから、


「それじゃ……行きます」


 そう言って、足に力を込めた。

 『敏捷性1』なので、当然、瞬間移動など出来ない。

 50メートル走で、20秒前後の鈍足。

 ヨタヨタという擬音が聞こえてきそうな速度で距離をつめると、

 ゲンは、拳を握りしめ、


「――ゲン・ワンダフォ――」


 ソウルさんのフトモモに向かって拳をつきだした。

 ソウルスさんの屈強な大腿四頭筋は鋼のような硬さで、


「……いったぁ……」


 殴った直後、ゲンは、手甲の痛みを軽減させるべく、手をヒラヒラとさせる。

 結構な痛みだったので、うっすらと涙が浮かんでいる。

 そんなゲンの涙を見て、

 ソウルさんは、


「綺麗な型のナイスパンチだったぞ、ゲン。だから、泣くな。遊園地には連れていってやる」


「……結構です。時間の無駄なんで」


 ドライにそう言いつつ、

 ゲンは、再度、両の拳を握りしめて、


「ソウルさん、今度は避(よ)けてもらえますか? 避ける相手を殴るのがどのぐらい難しいのか……ソレを経験したいので」


「お父さんと呼びなさい、まったく」


 やれやれ顔でそう言いつつ、

 『来なさい』といった感じでクイクイっと指を屈曲させる。


 ゲンは、遠慮なく、


「――ゲン・ワンダフォ――」


 今の自分に出来る『最短』を繰り出した。

 現状の最速。

 心を込めた、最高の一撃。


 ――が、もちろん、


「どうした、ゲン。一発で終わりか?」


 かすりもしなかった。

 拳が当たる直前で、

 ソウルさんの姿が消えて、

 気づいた時には背後に回られていた。


(……今の俺の動体視力だと、わずかも動きをとらえられないな。……つぅか、すごいな。強くなると、そんな速度で動けるようになるのか……)


 心の中で、『強者』に対する理解を深めつつ、


「ゲン・ワンダフォォオ!!」


 なんとか『かすらせてみよう』と、

 全身全霊で、


「ゲン・ワンダフォ! ゲン・ワンダフォ! ……連呼するの、キツイな、この技……ゲン・ワンダフォ! 精神的にくるというか、純粋に死にたくなる……ゲン・ワンダフォ!」


 本音を交えつつ、

 何度か拳を突き出してみたものの、


「はぁ……はぁ……なるほど……」


 ゲンの拳がかすることはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る