いっしょにごはんを食べよう。

いっしょにごはんを食べよう。


「ゲン・ワンダフォ! ゲン・ワンダフォ! ……連呼するの、キツイな、この技……ゲン・ワンダフォ! 精神的にくるというか、純粋に死にたくなる……ゲン・ワンダフォ!」


 本音を交えつつ、

 何度か拳を突き出してみたものの、

 ゲンの拳がかすることはなかった。


 ソウルさんは強すぎた。

 ゲンが弱すぎるのではない。

 確かに、それもなくはないが、

 やはり、単に、ソウルさんが強すぎるのだ。


 ――汗一つかいていないソウルさんは、


「どうだ? お父さんはすごいだろう?」


 胸を張って、自分の強さを自慢してくる。

 ゲンはダルそうな顔を浮かべたものの、


「……そうですね」


 一応、肯定しておく。

 そんなゲンの言葉に気をよくしたのか、

 ソウルさんは、ホクホク顔で、


「お父さんがこんなにすごいのは、毎日、たくさんご飯を食べているからだ。というわけで、ほら……」


 自分の袖でゲンの汗を拭きながら、


「一緒に、お母さんが作ってくれたごはんを食べよう」




 ★




 それから、さらに一年。

 雪の日であろうと、

 嵐の日であろうと、

 『興味ないね』とばかりに、

 ゲンは、


「――ゲン・ワンダフォ――」


 繰り返した。

 繰り返し、

 繰り返し、

 繰り返し、

 そして、

 繰り返した。


 完全脳死状態。

 まったく同じことを、

 毎日、毎日、何時間と繰り返すという狂気。


 その結果、当然のように、尋常ではない速度で、

 日に日に、ゲンの拳は堅く、鋭くなっていく。


 『ゲン・ワンダフォ』のスペックを上昇させるのも、

 努力ポイントを使用するわけだが、

 繰り返し続けることによって、

 どんどんトリックレベルが上がっていき、

 今となっては、ゲン・ワンダフォのトリックレベルは1000を超え、

 すさまじく少ない努力ポイントで強化することができるようになった。


 とはいえ、何度も何度も強化したため、トリックレベル1000に達していようと、

 次の段階に強化するためには、それなりの努力ポイントを必要とするようになった。

 そんな段階に至ってなお、グリムアーツ『ゲン・ワンダフォ』は、

 まだまだ、咲き方を知らないツボミでしかないのだ。


「――ゲン・ワンダフォ――」


 いまだ、トモダチの一人も作らず、

 なんの娯楽に触れることもなく、

 朝から晩まで、


 ただひたすらに、

 ド変態のように、


 ゲンは、


「――ゲン・ワンダフォ――」


 ダサさが一回りした必殺技でスライムを狩り続けた。

 その結果、



「……見えてきたぞ……武の真髄、その片鱗が……」



 ゲンはたどり着いていた。

 延々に、積み重ねてきた結果、


 ゲンは、ついに、


「武の真髄とは……」


 真理を垣間見た。

 ゲンがたどり着いた答え。

 それは――



「――『この単純作業を延々にやっていても絶対にわからないもの』と見つけたり」



 ――まあ、ある意味、正解であった。


 ちなみに、2年丸々、朝から晩まで繰り返した結果、

 ゲンが稼いだ努力ポイントは、1億の大台を突破した。


 『ゲン・ワンダフォ』の熟練度の上昇に従って、スライム一匹を狩った時に取得できる努力ポイントが徐々にではあるが、着実に上がっていった。

 努力は回数も大事だが質も重要であるという話。

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