ゲンは繰り返した。

ゲンは繰り返した。


(……目標としては……五大家の人間に『こいつを殺すのはもったいない』と思わせるくらい強くなること……そうすれば、最悪、俺より強い敵が出てきたとしても『殺すな』と待ったをかけてくれるだろう……)


 WEB小説では、そういう展開もあった。

 五大家の人間は利益を重んじる。

 ゆえに、金の卵を産むガチョウは殺さない。


 金は命より重いが、

 投資家・資本家は、

 『目の前の小銭』より、

 『未来の利益』を重んじる。


(数真とスライムでとことん強くなってから、カジノで稼ぎつつ、五大家の人間に自分を売り込む……ある程度稼げるようになったら、99%割引券で買える最大のアイテムを購入。そこから、努力ポイントを加速させていって、不老不死をゲット……そこから先は自由。そこから先が人生の本番)


 人生の計画表をたてると、

 ゲンは、


「よっしゃ。そうと決まれば、さっそくスライム狩りじゃぁあ!」


 胸の前で両手を合わせ、

 最初に閃壱番としての自分を産み落としてくれた母親とか、

 こっちの世界で一生懸命自分を育ててくれている両親とか、

 自分をこの世界に導いてくれた運命とか、

 なんだかいろいろバグっていて非常に面白いこの世界とか、

 いろいろ、なんやかんやに感謝をしてから、


「――ゲン・ワンダフォオオッ!」


 ダッサイ必殺技名を叫びながら、拳をつきだす。


 パァンとはじけるスライム。

 微笑むゲン。

 入ってくる努力ポイント。


「――ゲン・ワンダフォオオオッ!」


 ゲンは繰り返した。

 延々に、ひたすらに、


 はた目には『こいつ、頭おかしいんじゃねぇか?』と不安になるほど、

 『スライムを殴り続ける』というクソつまらない単純作業を、

 一心不乱に、延々と、ただひたすらに、

 ただ黙々と、途切れることなく、無我夢中で、



「ゲン・ワンダフォオオッ!」



 ――繰り返した。






 ★







 それから一年。

 雨の日であろうと、

 風の日であろうと、

 『んなこと知ったこっちゃねぇ』とばかりに、

 ゲンは、


「――ゲン・ワンダフォ――」


 繰り返した。


 次第に、ゲンの拳は重く、速くなっていく。


 トモダチの一人も作らず、

 おもちゃで遊ぶこともなく、

 ほかの何にも興味を示さず、


 ただひたすらに、

 キ〇ガイのように、


 ゲンは、


「――ゲン・ワンダフォ――」


 狂気的にダサイ必殺技でスライムを狩り続けた。


「ゲン、そろそろ、夕飯の時間……って、お前、またやっているのか」


 そんなゲンの様子を見たソウルさんは、

 呆れた口調で、


「意味があるかどうかはともかく……そうやって、同じことを続けることができる……というのは、一つの才能だな」


 しみじみとそう言った。

 その発言に対し、

 ゲンは、わずかも誇ることなく、

 むしろ、渋い顔で、首を横にふり、


「俺に才能なんかないですよ、ソウルさん。……これだけ繰り返したのに、全然、武の真髄が見えてこない」


「……三歳で武の真髄なんか見えてたまるか」


 ちなみに、

 スマホから飛び出してくるスライムは、

 どうやら『ゲンの目』にしか見えていないらしく、

 はた目には、

 ゲンがひたすらに『型』の練習をしているようにしか見えない。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る