メメント・モリ(死を想え)。

メメント・モリ(死を想え)。


 劇的に人生を変えられる裏技は闇市や数真くらいで、

 ほかの裏技は、そのほとんどが、

 インパクトにかける、しょうもない小ネタばかり。


(あとは……ぁあ、そういえば、『自分の命を懸けることで発動する』って裏技もあったなぁ……)


 絶死のように、覚悟さえあれば、誰でも発動するたぐいのものではなく、

 特定の手順を経なければ発動しない、

 いわば、絶死の上位版。


 その特定の手順とは、


(たしか……ヒーロー見参と口にしながら、自分の心臓にナイフを突き刺すこと……だったよな)


 その過程を経ることによって、

 『何かが起こる』という意味不明な裏技。


 これは、絶死のような『死を覚悟することによるパワーアップ』ではなく、

 『死ぬこと』によって『何かが起こる』という、なんとも救いのない技。


(その裏技を使うと、なにかすごいことが起こる……とは書いてあったが……)


 WEB版の主人公が『その裏技を試す前』に、

 ゲンは、この世界に転生したため、

 その裏技によって何を得られるのかは完全に不明。


(……その『すごいこと』ってのには、かなり興味があるが……しかし、死ななきゃ発動しない系の裏技だから、さすがに、おいそれと試せねぇよなぁ……)


 『ナイフを突き刺す』というあいまいな言い方だと、

 回避の手段がありそうに思える。

 が、この裏技は、その手の『逃げ』を許さない。

 『心臓を貫き、絶命に至る』――それが発動の絶対条件。

 ――と、WEB小説には注釈が書いてあった。


(この命がけの裏技は……この先、どこかで、『こりゃ確実に死ぬな』って展開になった時に試してみることにして……)


 ゲンは、いったん、

 リアルな未来に対して思考をシフトする。


(努力の積み方と、金の効率的な稼ぎ方……さて、どうしたものか……堅実にいくか、それとも、何か勝負に出るか……)


 と、そこで、ゲンは、ふと思い出す。


(……そういえば、確か、五大家主催の裏カジノだと、実力さえあれば、運否天賦に任せなくても、億クラスの大金が稼げたよな……)


 五大家主催の裏カジノは、レートがえげつない。

 そして、五大家主催の裏カジノでは、

 ポーカーやバカラなどのテーブルゲームだけではなく、

 剣闘士たちが命を懸け合う闘技場もある。


(確か、自分に賭けることも許されていたはず。自分にベットして勝ち続ければ……)


 『賭ける側』だけではなく『賭けられる側』にも回れば、

 ――ようするに、自分自身が『馬』として出場すれば、

 運に頼らなくとも、実力次第で、かなりの額を稼ぐことができる。


(もちろん、勝ち上がった先に待っている対抗馬は、五大家自慢の剣闘士たちだから、相当な実力をつけて挑まないと殺されるだけなんだけど……数真がつかえる俺は、やり方次第で、いくらでも強くなれる……)


 ゲンは、未来を演算する。

 効率的な成長、効率的な金稼ぎ。


(……目標としては……五大家の人間に『こいつを殺すのはもったいない』と思わせるくらい強くなること……そうすれば、最悪、俺より強い敵が出てきたとしても『殺すな』と待ったをかけてくれるだろう……)


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る