見せよう。

見せよう。


「――どうやったら、それほどの高みに……?」


 つい、口からついて出た。

 余計な雑念からではない。

 純粋で無垢な疑問から。


 ゴミスの純粋な質問に対し、

 ドナは、穏やかな声で、


「私はまだ高みに立っていない」



 その言葉が、ただの謙遜ではないと理解するのに掛かった時間はコンマ数秒。

 しみ込んでくる。

 今は、高次の対話中。

 だから、疑う必要はなかった。


(これほどの強さに至って……まだ……?)


 ドナの言葉を疑うことはない。

 しかし、それとは別の疑問がわいて出る。


(この強さは……間違いなく……完全院リライトを超えている……)


 ゴミスは、幼少のころ、一度だけ、

 完全院リライトと武を交わしたことがある。

 あくまでも戯れであり、真剣な対話ではなかった。


 それでもわかる。

 圧倒的な強さだった。

 『自分(ゴミス)では決してたどり着けない世界にいる』と思った。


 しかし、ドナと戦っている今ほど、

 完全院リライトに『遠さ』は感じなかった。


 幼かったころの記憶なので、間違いはあるだろうし、

 実際のところ、あの頃は、完全院リライトも若かった。


 ゴミスは『今』の完全院リライトを知らない。

 だから、確実なことは言えない。


 けれど、

 心が思う。


(この人の方が……高みに在る……)


 それは、

 シアエガが『センこそが最強だと判断した』のと同じ心のムーブ。


 経緯や理屈がどうであれ、

 ゴミスが感じた『遠さ』は事実。


 だからこそ、疑問符が湧く。


「それほどの領域にあって! まだ高みではないというのなら! 高みとは、いったい、どこにあるという?!」


 叫ぶ。

 懐疑からの悲鳴ではなく、

 『答え』を求めたがゆえの咆哮。


 あまりに真摯なゴミスの問いに対し、

 まるで当然のように、ドナは答える。


「見せよう」


 そう言うと、

 ドナは、全身のオーラと魔力を強大に膨らませて、



「――闇手ランク25――」



 すさまじいランクの魔法を唱えた。

 ゴミスの常識からすれば考えられない領域。


 魔法のランクは『20』がリミットであるという、ゴミスの中の常識。

 『魔法に関する限界の文献』等を見たことがある――というワケではないが、常識に対して盲目に生きてきたわけではないので、最低限の理解はできている。

 すなわち、それは、これまでの『人生』の中で得た経験的常識。


 実際に見たことはないが『完全院リライト』ならば、

 『ランク20の魔法も使えるだろう』という『予測』。


 つまりはただの勘。

 常識という器で世界を目測した際の『感覚』の話でしかない。



「高みに……あなたは『達していない』……といいながら、『見せよう』とも言う……これは、なんの禅問答だ……あなたは……いったい、何者なんだ……」



 ドナと出会ったことで、ゴミスの中の常識がどんどん崩れていく。

 本物の神様でも見つけたような目。

 ゴミスの中で、ドナがどんどん大きくなっていく。


 ――闇手は、闇属性を有する『5本の浮遊する腕』を召喚する魔法。

 自由に次元を跳躍できる特性を持ち、

 黒死刀というすさまじい火力の特殊武器を扱うことが出来る特異性を持つ。


 空間系に対する対処をしていなければ積んでしまう、殺意がハンパない高次魔法。


 ドナは、

 タメにタメた魔力とオーラを解放させて、

 胸の前で、両手を交差しつつ、






「――死夜の薔薇――」





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