死夜の薔薇。

死夜の薔薇。


「高み……あなたは『達していない』といいながら『見せよう』とも言う……これは、なんの禅問答だ……あなたは……いったい、何者なんだ……」



 ドナと出会ったことで、ゴミスの中の常識がどんどん崩れていく。

 本物の神様でも見つけたような目。

 ゴミスの中で、ドナがどんどん大きくなっていく。


 ――ドナは、

 タメにタメた魔力とオーラを解放させて、

 胸の前で、両手を交差しつつ、



「――死夜の薔薇――」



 それは、ドナが誇る最強のグリムアーツ。


 浮遊する五本の闇手が、黒く輝き、カっと光った。

 広がっていく、美しい地獄。

 闇色の花びらが、艶やかに、幻想的に舞い散る。



「……神……」



 思わず、声をもらしてしまったゴミス。

 あまりに美しすぎた。

 ゴミスの視界は、

 『無限の死』で埋め尽くされる。


 黒い後光を背負った高純度の闇が、

 キラキラとまたたいて、途方もない死を飾る。

 甘く、切ない、美貌の死。


 ――『死夜の薔薇』は、簡単に言うと、

 『召喚可能な闇手の数』を『20倍』にするという、

 きわめて特殊な、魔力とオーラの運用法。

 『魔法体術を極める』というタイプの異型グリムアーツ。


 ※ グリムアーツは、魔力を使わないタイプがほとんどだが、

   死夜の薔薇のように、魔法の運用を極めるタイプだと、

   当然、大きな魔力を必要とする。


 現時点で、すでに100本の召喚に成功しているが、

 最終的な目標は『10000本』の闇手を召喚すること。


 ドナは、厳かに、


「リラ……リラ……」


 心を込めて、


「――ゼノリカ――」


 神を賛美する。

 すると、

 100本の闇手が、さらなる深き後光を放ち、


 ――ギギィイッッ!


 と、唸りを上げながら、

 亜空間を豪速で駆け回りつつ、



「がっはぁぁあああああああああああああああああっっっ!!!」



 ゴミスの全てを殺しつくそうと、

 次元を裂きながら、獰猛に襲い掛かった。


 黒死刀の乱舞。

 黒い刃が煌めいて弾ける。


 一撃だけでも充分に即死級の一手が、

 無限を彷彿とさせるほど、

 美しく、満開に咲き誇る。


 これだけの『膨大な死』に晒されて、

 しかし、ゴミスは死ななかった。


 終わらない闇色の命。

 その中で、

 ゴミスは、


「……光……」


 光を、見つけた。

 眩しくて暖かい光。

 心にしみこんでいく。

 魂の重荷が減っていく。

 ――『自由』の意味が理解できた気がした。



「……なんという……」



 理解できない感情に支配されるゴミス。

 終わらない死の中で、ゴミスは『神の光』を垣間見た。



 ――ドナが、『死夜の薔薇』に込めたのは『かつての想い』。



 古参であるドナは、聖典で知識を補完したのではなく、

 『その目と心』で、神の偉業を魂に刻んできた。


 絶対の超魔王を超えた神。

 無限の戦争を終わらせた神。

 そして、

 たった一人で『1000×10000』の地獄に立ち向かった神。



「真の高みは……言葉になどできるはずもない」



 ドナの中で、高次の暖かさが膨れ上がる。



「あの光に触れていない者に……理解など、出来うるはずが無い」



 ドナの全てが『光』に包まれる。


 満たされていく。

 思い出すだけで。

 想いを馳せるだけで。


 ドナの全てに、甘い熱がともる。



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