俺は、お前の貪欲さを肯定する。

俺は、お前の貪欲さを肯定する。


「……マジで、護衛とかいらねぇんだよなぁ……つぅか、普通に考えたらわかるだろ。俺を守る盾なんか、絶対にいらんわい……まったく……だるいわぁ……」


「……主よ。ここには『主の無様』を目の当たりにしたとしても、心変わりを起こす者などおりません。自らを貶めてでても、我らの安全を優先してくださるそのご配慮には心から感謝の意を表しますが、しかし、主よ。我々の前では、常に、『本来』の『果てなき尊さに包まれたあなた様』でいただきたく存じます」


 ドナの鋭い視線に貫かれ、

 センは一瞬だけたじろいだ。


「……どっちかっていったら、こっちの方が素だと思うんだけどねぇ……」


 センは、ぽりぽりと頭をかいてから、


「まあ、でも……」



 ドナの、常に『絶対的な神の威光』を求める貪欲な姿勢に対し、

 センは軽く辟易しつつも、しかし、


「それがお前らの望みなら……」


 と、そこで、セキを一つはさんで、

 オーラを凝縮させ、

 神々しい輝きを放ちながら、


「下がれ、ドナ。まだ俺の時間は終わっていない」


 神気がつかえなくとも、

 センのコアオーラは質のケタが違うので、

 破格に美しい輝きを魅せるコトは難しくない。


 センは、ドナの貪欲さを肯定する。

 尊き神の姿勢でシャンとする。

 それが子の望みならば、叶えてやるのが親の役目。


 結局のところ、どこまでも、ゼノリカに甘いセン。

 決して甘やかしているわけではないが、

 子の真摯な願いには弱いセン。


 ――『尊き愛に包まれている』、

 そう実感できる『神の命令』を受けて、

 だから、ドナは、

 心から満たされたような顔をして、

 深々と頭を下げた。


 ドナがうやうやしく下がったのを確認してから、

 センは、バロールに視線をうつし、

 その『奥』に潜む者を見下ろし、


「確か、シアエガ……だったか? くるしゅうない、おもてをあげよ」


 その命令を受けると、

 バロールの中に潜むシアエガが、

 グっと前に出てきて、


「……と、尊き御方……」


 少し震えている。

 限りない畏怖。

 魂魄を震わせる神の威光が、シアエガの全てを委縮させた。



 センエースを知ってしまったことで、シアエガの心は一瞬で粉砕された。



 シアエガは、コスモゾーン・レリックとしての『当然のプライド』が高いだけで、

 決して、目の前の現実が理解できない『おバカさん』ではない。


 『ミシャ』までなら、まだ、なんとか、

 コスモゾーン・レリックとしてのプライドを保つこともできた。

 もちろん、ミシャが圧倒的な強者であることは理解できている。

 『上から目線』を貫こうとしたのは、

 生まれつきの絶対的な矜持(きょうじ)。


 だが、今では、それすら保てない。

 完全に砕け散ってしまった。


 この期に及んでしまっては、

 もはや、威勢は保てない。


 目の前にいる神は、

 あまりにも尊すぎる。


 狂気的な鍛錬の結晶。

 あまりにも深い覇者のオーラ。


(……畏れを超えた情動が、理解を……飲み込んでいく……)


 強大な畏怖以上の敬意に突き動かされて、

 シアエガは言う。



「あなた様は、私が『永遠』を積んでも届かない場所におられる」




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