全身全霊。

全身全霊。


「すでに、あらかた詳細は聞いているが、自分の目でも確認したい。というわけで……余力を残すことなく、全身全霊で……かかってこい」


 命令を受けると、

 バロールは、一度背筋をピンと伸ばして、


「かっ、かしこまりましたぁっっ!!」



 全力で返事をしてから、

 バロールは、命令通り、



「――星典黒猿! 虹気(こうき)!!」



 初手から『最大の切り札』を投入。

 虹色のオーラに包まれ、圧力が膨れ上がる。


 その様を見て、センは、



「オーラの純度を上げるオーラか……悪くない」



 ボソっとそうつぶやいた。


 バロールは、


「……まいります」


 まだ緊張している面持ちで、

 しかし、命令どおり、

 全身全霊で、

 天を仰ぎ、


「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!」


 叫びながら、オーラと魔力を高めていく。

 腹の底から声を出し、

 自分を鼓舞しつつ、


 少しでも神の役に立とうと、

 魂と心を高めに高めて、


「覇王斧気(はおうふき)ランク20!! 雷鳴飛翔(らいめいひしょう)ランク20!!」


 バフにバフを重ね、

 モリモリの野獣に変貌すると、




「連牙(れんが)・飛光刃(ひこうは)ランク23!!」



 オーラと魔力をブチ込んだ斧を振りぬく。

 一振りで『二つの刃』が猛獣の牙のように唸りを上げながら飛翔する。

 ――光り輝く二つの刃がギキィっと軋轢(あつれき)音をたてながら、

 獰猛かつ狡猾に、センを食い破ろうと、左右から襲い掛かる。


「おぉ、鋭いじゃないか……良(よ)き良(よ)き」


 褒めつつ、

 襲い掛かってくる2つの刃を、

 ペっと、軽くシバいてかき消す。


 蚊でもはらうように、サラっと、

 『バロールの一手』を『なかったこと』したセンの姿を見て、

 バロールは、

 冷や汗をダラダラさせながら、


(……な、ナニをされたのか……それすら……わからない……)


 唖然とするばかり。


「さあ、どんどんこい」


 くいくいと、手招きをされて、

 バロールは、


「はっ!!」


 あらためて返事をしてから、

 全身に溜めたオーラと魔力を解放・爆発させ、


「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 虹気のブーストを受け、

 すべての力を解き放ち、

 全身全霊でセンと向かいあうバロール。


 バロールは全力だった。

 命令通り、余力を一切残すことなく、

 そのコアオーラの全てを燃やして、

 究極超神センエースと向かい合った。


 ゼノリカの天上。

 九華十傑の第六席。

 圧倒的な高みに位置する超人。

 神となり、さらにその気高さが増した天上人。


 しかし、

 そんなバロールの全力をもってしても、


「……ぉお、どちゃくそエモいねぇ。まじ、バビるぅ」


 神には、かすり傷一つつけることができなかった。

 どうやら褒めてくださってはいるようだが、

 神は、汗一つかかず、バロールの攻撃を人差し指だけで受け流し続けている。


 これはもはや、かすり傷一つつけられないとか、そんなレベルではない。

 神が許していなければ『この距離まで近づくこと』すら、絶対に不可能。


(も、もし神が私を殺す気でここに立っていたならば……私はすでに数千億回ほど死んでいる……)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る