100万年。

100万年。


(ありがたい!! 千載一遇のチャンス!! 限界まで『時間』をもらう! ――だが、灰になっては意味がない……精神が崩壊するギリギリ……ボクは、何年、耐えられる……?)


 『謎の扉』の『急な出現』に対する『?』のリアクションはゼロで、

 ただひたすらに、己の幸運に対する『感謝』の奥で、

 『自分なら何年耐えられるか』を真剣に計算する平熱マン。


(1000年は余裕……1万年もいけるだろう……)


 そこまでは想像できる範囲。

 問題はそこから先。


(何年だ……ボクは、何年耐えられる……)


 熟考の結果、

 平熱マンは、




「……100万年」




 そう結論を出した。


 100万年という数字を出した平熱マンに対し、

 センは思う。


(いい線だ……お前は『バカな俺』と違って『自分』がちゃんと見えている。お前の精神力では、100万年以上は耐えられず、灰になる)


 決して『平熱マンの精神力が弱い』というワケではない。

 あえて詳細に説明するまでもないが、

 『100万年』という数字だって、常人をドン引かせるには十分な異常。


 『200億年という狂気』に耐えてしまった『どこかの狂人』が、

 『次元違いにド変態』なだけで、

 100万年というのも、十二分以上に、ラリった数字。


 ――続けて、センは思う。


(お前は『凡夫の俺』と違い、本物の天才だ。100万年も積めば、『器』をつくるくらいは出来るだろう)


 素直にそう思う。

 平熱マンの才能があれば、100万年は十分な時間。


 ――しかし、もちろん、


(ただ、俺に一撃を入れようと思えば、そこから『先』を積む必要があるんだがな)


 ニっと笑いながら、そう結論づけた。


(器をつくるだけで届くほど、俺はお前の『近く』にいないぞ、平)


 ただ、その『無慈悲な結論』を口に出すことはなかった。

 センは『子供の可能性をつぶす親』ではない。

 『親に可能性を否定された子供』の『限界』は例外なく狭くなる。


 毒親を乗り越えてたくましく成長する子供もいるが、

 そもそも親が毒属性でなければ、

 無駄なハードル走をする必要がなく、

 直線・最短をひた走ることができる。

 どちらの方が『より速く』・『より遠く』までいけるかは言うまでもない。



 ――だから、センは、平に事実を告げたりはしない。

 ただ、現実問題、

 『器をつくっただけの平熱マン』がセンエースに勝つのは絶対に不可能。


 ただ、下地を作れば、当然、可能性が広がる。

 今日、平熱マンがセンエースに勝つことは不可能。

 ――しかし、『いつか、センエースに届くための下地』をつくることに対し『否定的になる理由』は皆無。


 だから、センは黙って見守る。


 そんな神の暖かな視線を受けながら、

 平は、


(……ただ時間を浪費するだけでは……師には届かない……ビジョンがいる……明確な『明日の自分』……師に届く自分……あの『とてつもなく強大な師』に一矢を報いる自分……正直、全く想像できない……しかし……『不可能』という『弱さ』に逃げたりはしない!)


 『とっくに決まっていた覚悟』に、

 さらなるニトロをぶちこんで、


 ――平は、ゲートを開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る