ソウルゲートを経た平熱マン。

ソウルゲートを経た平熱マン。


 そして、中に入ると、

 平は、そのままの流れで、すぐに外に出てきた。

 と同時に、世界から退場するソウルゲート。



 センの視点では、

 壊れた『どこでもドア』をくぐっただけにしか見えなかった。



 ――『ソウルゲート』では、存在値を上げることができない。

   戦闘力(スキルの技術も含まれる)しか上がらない訓練所。

   だから、『純粋な見た目』に変化は見られない。



 扉をくぐる前の平熱マンと、

 扉をくぐった後の平熱マンに、

 『見た目の違い』というものはほとんどない。


 しかし、

 センの目には『その向こう側――本質』が見えている。

 だから、


「……随分と上げてきたな。オーラの質とツラ構えが違う」


 平熱マンの『ステータス上の数値』に変化はない。

 だが、

 戦闘力に関しては、別人のように進化していた。




「……この上なく尊き我が師よ……」




「なんだ?」


「一つお聞きしても、よろしいでしょうか」


「好きに聞け。俺はお前にモノを教えるのがメイン職だ。『神』としての仕事は副業にすぎない」


「……恐悦至極……もったいなくも、師の『暖かなお言葉』を賜り、ボクの全てが『この上ない喜び』に満ちておりまする」


「いちいち褒めんでいいと言っとろぉが。お前は本当に人の話を聞かんやっちゃな……」


 『センに触れた者』は、たいがい、

 『センの尊さを称えたくて仕方がない病』にかかってしまう。


 『アダムに散々注意したものの結局治らなかった』のと同じで、

 平も、何度注意しても、スキあらば、センをほめたたえてくる。


 ――センは、鬱陶しそうにため息を挟んでから、


「で? 何が聞きたい?」


「師は……あのソウルゲートで本当に『200億年』も……耐えることができたのですか?」


 センが『P型センエース1号』と会話していた際、

 P1が『ソウルゲートで200億年うんぬん』と言っていたのを、平は覚えている。


 平が、実際に体験してみて思ったことは次の通り。

 ――『100万年』でも精神的には、かなりギリギリだった。

 ――あれ以上は厳しい。

 ――おそらく、100万年前後が生命の限界点だろう。


 平は、本当に、ギリギリのギリギリで、ソウルゲートから帰還した。

 ハッキリ言って、何度か精神が崩壊しかけた。

 自分以外誰もいない場所で、ただ一人、孤独に黙々延々(もくもくえんえん)と修行をし続ける――その狂気は、はかりしれない。


 最初の1年、2年なら、元気溌剌で修行できた。

 だが、5年も経った頃には心が擦れてきた。

 10年たったころには『現実味』が消えていた。

 100年が経ったころ、平は自殺を考え出した。


 時間をナメてはいけない。

 数字をナメてはいけない。

 『完全なる孤独』の『底』で『ただ積み重ねるだけの一秒』を、

 ――ナメてはいけない。


 修行がつらいとか、そういう話じゃない。

 すべてが悪夢になっていくのだ。

 黒い白昼夢。

 心がすりつぶされていく。


 『命』は『一つ』では、生きていけないと分かった。


 圧倒的な孤独に打ちのめされ、

 何度も自殺を考えた。

 現実が乖離して、

 幾度となく自分を見失った。


 苦しくて、苦しくて、仕方なかった。


 ――師を失いたくない。

 ――そのための力が欲しい。

 その強い想いがあったから、

 どうにか、ギリギリ、

 本当にギリギリ、耐えきることができた。


 ――平は思う。

 もちろん師には負けるが、

 しかし、自分も『精神力』には、それなりの自信がある。


 そんな自分でも100万年が限界だった。


 耐えきれた自分を、本気で褒めてあげたいと平は思う。

 あの孤独地獄で100万年も耐えられる者はそうそういない。

 本気で思う。

 だからこそ、強く思う。

 200億なんて、そんな数字は絶対に不可能だ。



「正直……200億年という数字は……ボクだと、想像することさえできません……師は……本当に、そのような……」



 正直、平は『何かの間違いだろう』と思っている。

 記憶違いか、認識違いか。

 あるいは、『200億』というのは『何かの隠語』で、

 『実際の数字』とは異なるのではないか。


 ――と、そんなことを思いながらの質問だった。

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