命は、永遠に、完成などしない。

命は、永遠に、完成などしない。


(……『センエース』という『神』が『存在』してくれさえいれば、ゼノリカは、いくらでも再生できる……人類の倫理的完成に必要なのは……ボクらじゃない……あなた様だけ……いと尊きあなた様御一人だけ……『命の未来』には……ゼノリカには……ボクには……あなた様の背中が必要なのです……ほかの何を失ってもいい。あなた様だけが……すべての希望)


 平熱マンの想いが膨れ上がっていく。

 膨大に、再現なく、天元を突破し続ける。


 『その事実』に、センエースは気づかない。

 センエースは『最果て』に至った『偉大なる神の王』だが、

 『命の心』を完全に理解しているわけではない。


 ――命は完成などしない。

 ――未完成で、不完全で、だから……



「お前は、いつか、俺の盾になれる。お前は、いつか、俺の剣になれる。そうなってほしいと思っている。だから、その前に死ぬな。これは命令だ」



 その言葉は、センエース的に、

 『バシっと決まった慰め』であり、

 『良い感じの激励』であり、

 『最善最良の締め』だった。


 センエースは思う。

 ここまで言えば『通るだろう』と本気で勘違いしている。

 『わかってくれるだろう』なんていう、とんだ過(あやま)ち。


 ――センエースは『心』を理解していない。

 『戦闘時』における『心の推移や機微』のおおよそは掴んでいるが、

 『愛』に属する『命の心』に関してはまるで理解できていない。


 だから――


「わかったら、ゼノリカの守りを固めろ。センエースコレクションを総動員して、『敵』の襲撃に備えるんだ。『本来の性能』を発揮できなくとも『俺が創った究極超神器たち』は、それなりに高性能だから、十分使えるはず。ゼノリカの職人は全員優秀だが、しかし、さすがに俺には勝てん」


 ゼノリカに属する錬金術師や鍛冶屋は、全員、相当な力をもっているが、

 さすがにセンエースにはかなわない。


 ――センエースに『錬金や鍛冶』に関する『芸術的才能』はなかった。

 しかし、バカみたいに積み重ねた結果、

 芸術的才能を凌駕する器を手にいれた。


 魔法・剣術・体技・召喚術・気功術・鍛冶錬金、

 『最強』に至るために必要な技能は、

 その長き人生の中で、

 徹底的に磨き上げてきた。


 『センエースの努力』に勝てる『天才』はゼノリカには存在しない。

 ゼノリカに存在しないということは、この世のどこにも存在しない。


「防衛に際して、最も重要となる点は『俺の呼び出し方』だ。敵が襲ってくるとすれば、確実に、俺が外出して情報収集しているスキを狙うだろう。俺との連絡網を強固に――」


 と、そこで、




「ずっとそうだった……」




 平が、

 フラつきながらも、

 しかし、


「ずっと……ずっと……」


 立ち上がる。

 経絡(けいらく)が乱れて、

 脳がカラカラで、

 足が動かなくて、

 心の芯が『むりだ。もう動くな』と、

 なんだか五月蠅(うるさ)く叫んでいるけれど、


 ――それでも、



「ずっと、ずっと、ずっと……師は……ボクらを守ってくれた……」



 重たい涙がこぼれた。

 自分の弱さに対する悔し涙でもあるが、

 それ以上に、

 『丁寧な形』で伝えたい想いがあふれたから。

 だから――



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