平熱マンVSセンエース。

平熱マンVSセンエース。


「俺が『孤高体質』だってことを排除しても、ここは俺一人でいくのがベスト。最も安全で最善の策」


「どうしても聞き入れてもらえないというのなら……しかたがありませんね」



 そこで、平は剣を抜いた。




 覚悟のともった目で『この上なく尊い師』を見つめる。


「……ふむ。どういうつもりだ?」


 センが静かにそう問いかける。


 平の行動に、アダムが一瞬、『主上様に剣を向けるとは、なんたる不届き――』と叫びかけたが、

 『ここまでの流れ』を見ていなかったわけではないので、

 当然、彼女は『平の想い』を知っているし、

 『センを危険にさらしたくない』という気持ちは同じだったので、

 黙って趨勢を見守っている。


「……『簡単には死なぬ』というところを……『盾として機能』しながらも、必ず生き残り、師が望む『本来の役目』を『全う出来る』というところを……お見せします」


「……」


 センは数秒だけ考えてから、


「まあ、いつまでもグダグダと平行線のおしゃべりを続けるよりは、まだ生産的な申し出だな」


 そういうと、

 センは、

 首を左右に軽く振り、ポキポキっと小さな音を鳴らして、


「――『センエース』を教えてやるよ。お前らは、まだ『俺の盾』になれるほどの『高み』には『達していない』という事を、その身に叩き込んでやる」


 構えを取らず、

 超自然体のまま、

 余裕大爆発で、

 ニっと口角をあげる。


 ――センエースはわらっている。



 その明らかな『スキ』を前にした平は、

 剣を握る手に力を込めて、



「いざ、参ります」



 そう宣言し、

 平熱マンは世界を翔けた。

 次元跳躍にフェイントを混ぜて、


 確定有利な間合いに自分をセットすると、


「平熱マン・スラッシュ!!」


 最も信頼する剣技を放った。

 心を込めた一撃。


 その一撃を――


「うん、熟練度がかなり上がっているな。丁寧に磨いてきた道程がうかがえる」


 ヒョイっとよけながら、

 そう批評する。


 ――センエースはようすをみている。


 『あっさり避けられる』――そんなコトはハナから想定済みだった平熱マンは、いっさい臆することなく、続けて、タイマン用の技や魔法を駆使して、センエースに詰め寄るが、


「――『流』が、まだ少し荒いな。視野が狭い。精神的な死角が多い。だから、足元をさらわれる」


 まるで吸い寄せられるように、

 平熱マンは、

 『センの出した足』にさらわれた。


 みっともなくすっ転んで、


「ぎっ」


 一度、歯噛みしてから、

 すぐに体勢をたてなおす。


 圧倒的な差。

 絶対的な差。


 はるか高みにいる神は、


「……『俺より弱いこと』を『理解できている』のはいいんだが、それを踏まえた上での動きがまるでなっちゃいない。……もちろん、お前だって『強者と戦ってきた経験』がゼロではないから、当然『100%出来ていない』というワケではないが……俺の視点ではゼロと大差ない」


 闘っている間、

 センエースの周囲では、

 常に、『ひょいひょい』という気軽な擬音がこだましている。


 時折、闘いの中で、平熱マンの肩や腰を押したり引いたりしながら、

 平熱マンの流を矯正していく。


 圧倒的な高みからの指導手。

 闘いにはなっていなかった。

 闘いになど、なるはずがなかった。



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