万物最強の、真なる王。

万物最強の、真なる王。




「――『舞い散る閃光センエース』。世界最強は、お前じゃない」




 ウムルの『その挑発』を受けて、

 センは、


「……ふぅん」


 低トーンで返事をする。


 ほんの少し、心が熱化したが、

 しかし、ウムルが発している特質性の奇異が、センエースの魂を鎮火させた。


 センは、ウムルを探るような目でとらえる。

 それは、図り切れていない目だった。


(俺のプロパティアイですら何も見えない……純粋な『見た目』でも、奇妙という点以外は何もつかめない……そして、こいつは、無知ではなく、『俺』が誰かを知っている……)


 いったん、『その事実』と向き合ってから、

 スッっと、短く息を吸って、


「では、誰が世界最強なのかな? そこのところ、ぜひ、ご教授願いたいね。もしかして、あんたが世界最強? だとしたら、ぜひ、お手合わせ願いたいな。『この俺』も、世界最強とまでは言わないけれど、しかし、そこそこ強いと思うから、退屈はさせないと思いまっせ」


 センの返しは、ようするに『やるならやったるぞ』だったのだが、

 ウムルはセンの返しをさらりと流し、

 なんとも事務的に、

 淡々と、感情のない声で、

 まるで、事前に用意された台本のセリフでも諳(そら)んじているかのように、




「我が王は……貴様をはるかに超える虚空。万物最強の、真なる王」




「ふぅん、なるほど、なるほど。あんたの上司が最強なのね。了解でーす。で? いろいろ教えてくれて助かったけど、その目的は? 俺よりも強いヤツがいるって『真理』を俺に教えることがあんたの命題だってことはよくわかったし、あんたが教えてくれた『真理』は、俺にとって非常にショッキングな内容だった。――で? そういう諸々の行動にいたった動機は? 俺に真理を教えて……だから? いつだって、大事なのはそこだろ? 違うかい?」


 センエースの問いに対し、

 ウムルは、

 安定のシカトを貫いて、




「我が王は、私などとは比べ物にならないくらい強い」




「あんたの王はすごい。あんたよりも強くて、すごくかっこいい。――うん、はいはい。それはもう十分わかったから、少しは会話をしようぜ」


「その事実を、忘れるな」


「だから、それは分かったと言って――」


 と、センが心底ウザったそうな顔であしらおうとしたところで、



「――っと!」



 ふいに、ウムルが豪速で殴り掛かってきた。

 しなる体を弾ませて、

 その拳を、ロケットのように突き付けてきた。


 ギリギリのところで回避するセン。

 スウェーでよけたのは余裕からではなく、

 状況的にそれ以外の選択肢はなかったがゆえ。

 つまりは最善策を強制された結果。


(はやいな……)


 心の中でそうつぶやくと、

 リンボーに近いスウェー状態のまま、

 右手を地面にそえて、左足を軸に、右足の膝を、

 グンッッ!

 と、強く、突き上げる。


 ウムルの腹にぶちこむつもりだったが、

 ウムルは瞬間移動でその場から消えていた。


(軽やかだねぇ……)


 そう評価しながら、

 センはブレイクダンスのような鮮やかな回転で体勢を立て直すと、


 『自由で高度なフェイントを入れつつ空間を翔(か)けまわっているウムル』を、

 静かな心でとらえ、


(出力的には存在値1000くらい……だが、戦闘力はかなり高い)

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